2018年1月31日水曜日

クロロフィルキャンドルの作製

前回のフィコシアニンキャンドルに続いて、手作りキャンドル第2弾は、「クロロフィルキャンドル」である。

クロロフィルという物質は聞いたことがあるだろうか?高校の生物では習うはずである。日本語にすると、「葉緑素」であり、こちらの方が馴染みがあるかもしれない。光合成をするための色素である。

ちなみに学生実習でもクロロフィルはキーワードの一つで、光合成に関連する色素の種類について、自分で調べてレポートを書くことになっている。

前回は蝋にフィコシアニンを混ぜて手作りキャンドルを作製した。

蝋はワックスという炭化水素(炭素Cと水素H)の鎖がついたエステル(-COO-)という化合物である。これは脂溶性すなわち水に溶けない物質である。要するに油・油脂である。

そこに水溶性の青色色素を混ぜたので、混ざらずに青いフィコシアニンボールができて、それはそれで面白いものになった。

今回はクロロフィルを混ぜる。クロロフィルは、スピルリナという食用のシアノバクテリアから取りました。スピルリナタブレットに少し塩を入れながらすりつぶし、エタノール(アルコール)を入れると抽出できます。

クロロフィルは、フィコシアニンと違い、脂溶性物質、すなわち水に溶けない。また、フィコシアニンはタンパク質であったが、クロロフィルはタンパク質ではない。

ということで、クロロフィルは蝋と混ぜることができる。

こんな感じでクロロフィルを用いて蝋を着色することができた。

ちなみに上に乗っているのはフィコシアニンをアルギン酸という物質で固めたものなのだが(別の記事でアルギン酸は扱います)、ビジュアル的になんかいまいちでした💦。

一応動画も載せておきます。。




ということで、同じ色素といっても水に溶けるものもあれば溶けないものもある。このように、光合成生物は、多様な色素を使って光を集めて、光合成のエネルギー源としている。

生物学的な側面だけではなく、色素は見た目を綺麗にするという効果を持つため、商品としての価値も高い。

基礎から応用まで、非常に興味深いのが色素である。

2018年1月30日火曜日

農芸化学ってなんだろう?

我々の学科は明治大学農学部の農芸化学科である。

「農芸化学ってなんだろう?」

この学科名を口にする場合、まずこれを考えなければならない。農芸化学という言葉は、普段の生活で使うことはないし、物理や化学、生物と違って高校の勉強科目にもない。

公式な見解としては、こちらの農学部ガイドを参照して欲しい。
農学部HP
農学部ガイド

農学部ガイドの冒頭には農芸化学科の説明として
"微生物を用いた環境にやさしい技術の開発、おいしくて健康に良い食品の研究開発、植物生産や環境の資源である土壌の研究、動植物や微生物が生産する有用物質の検索"
と書いてある。

また、日本有数の巨大な学会である日本農芸化学会のHPはこちらである。
こちらのHPでは、
"農芸化学は、生命、食糧、環境の3つのキーワードに代表されるような、「化学と生物」に関連したことがらを基礎から応用まではば広く研究する学問分野"
と説明されている。

明治大学農学部には、農学科、農芸化学科、生命科学科、食料環境経済学科の4つがある。他の学科に比べると、農芸化学の中身は名前からはわかりにくい。

農芸化学科を受験する学生は、「食品の研究」に興味ある場合が多い。

今年度の大きなニュースといえば、農芸化学科の村上先生によって発酵熟成肉の会社が立ち上げられ、ファーストフードから熟成肉のハンバーガーが発売されるなど、テレビ、新聞など多くのメディアが取り上げることになった。
https://www.meiji.ac.jp/koho/press/2017/6t5h7p00000pc9ft.html

また、学科長の中島先生のブルーバックスが「発酵の科学」が刊行された。
表紙を見ていただければわかる通り、納豆、味噌、醤油、酒などの「発酵」について、科学の話に加え、発酵の歴史や教養などがたくさん詰まっている。読んでいると発酵食品を食べたくなってお腹が空くので、注意が必要である笑。

大事なこととしては、上記の先生方は、学内では「食品の先生」ではなく、「微生物学の先生」と認識されていることだろうか。

私の研究でもそうだけれど、分子生物学が専門で、最近はバイオプラスチックなどの生物工学・環境バイオテクノロジー研究を行っている。

ところが、研究が進むにつれて、食用色素のフィコシアニンの生産や、食品としても知られるスピルリナ・ユーグレナの研究にも発展している。また、バイオプラスチック原料であるコハク酸は、食品添加物でもある。

こちらはフィコシアニンキャンドルを作っているところ。手ぶれしていてすみません💦。。



ということで、私も食用色素や藻類の研究をしているので広くいえば「食品の研究」を行っていることになるのかもしれない。

このように、食品・微生物・環境・化学などがキーワードだが、どれかを勉強・研究するのではなく、すべてを勉強して、それらを自分なりに融合するのが農芸化学ではないかと思う

自分の知識や技術が1つの分野だけでなく、多方面に役立つように成長するのが農芸化学の特徴であると思う。

しかしながら、分野を広く学ぶので、必然的に勉強量も多くなる。入学すると、「勉強が大変」とひたすら上の方々から言われるのが本学科の特徴でもある。

農芸化学は、普段なじみのない言葉であるので、知らない人も多いかもしれない。少なくとも私は、高校生の時には農芸化学という言葉は知らなかった💦。したがって、農芸化学科には「自分で考えて行動する」人が多いのではないかと思う。なんとなくレールに乗っているだけでは、農芸化学にたどり着かないからである。

一方で、上記の通り、いろいろな分野を研究しているため、「現時点ではまだどんなことに興味があるのかわかっていない人」にもおすすめである。高校卒業時点で進路を決めるというのはかなり難しいと思う。実際に学んでみて、方向転換できるのもよいところであるので、迷っている人はぜひ農芸化学科にチャレンジして欲しいと思う。

ということで、自分なりに農芸化学を紹介した。上で述べた通り、農芸化学は自分なりに学問を融合する分野であるので、あくまで一意見である。学問を学ぶだけでなく、学問を作ることにチャレンジしたい人、ぜひ農芸化学科においでませ。。

2018年1月29日月曜日

明治大学の入試の特徴。農学部へようこそ。。

センター試験期間も終わり、いよいよ各大学での入試シーズン到来となる。

明治大学では今まさに一般選抜入試の出願期間である。
https://www.meiji.ac.jp/exam/information/general/index.html
全学部統一入試はすでに締め切られている。
※入試についての正式な締め切りは必ず公式サイトをご確認ください。

明治大学ではいろいろな入試形態がある。各学部によって入試形態が異なるので確認をして欲しいが、一般入試、推薦入試、センター利用試験などに加え、特徴的なのは全学部統一入試というものがあることだろうか。

全学部統一入試とは、文字通り全学部で共通の問題を解くということである。

一般選抜入試では、当たり前かもしれないが各学部ごとの問題になる。

一方、全学部統一入試では全学部共通の問題が出され、自分が志望する学部・学科に合わせて問題を選択することになる。

ようするに、「明治大学のセンター試験」といえばわかりやすいかもしれない。

各学部には、推薦枠、センター試験枠、全学部統一試験枠、一般選抜入試枠があり、それぞれで合格者が決まる。合格人数や何度はその年によるので、なんとも言えない。

このような全学部統一入試があるため、どうしても明治大学の◯◯学部に行きたい!という場合には、複数回の受験チャンスがあるということになる。

我らが農学部の入試ももうすぐである。私立大学では早慶上智大学などには農学部がない。獣医学部を除くと明治大学農学部が偏差値では最上位ということになる。

私立大学理系偏差値ランキング

とはいえ、あまり偏差値の話はよくないかもしれない💦。大学に入学してからどれだけ自分が勉強するかが大事なので、入学してから安心しているとあっという間に年をとって就職に困ることになる。

特に、最近の学生はかなり真面目でよく勉強する。なので、大学に入ってから勉強しないでいると、他の人とすごく差がついてしまう。

我らが農芸化学科はたくさん実験をして、実習も講義もたくさんあり、とにかく勉強が大変な学科である(先生も大変である💦)。

※詳しい説明はこちら
農学部ガイドPDF

しかし、楽して遊んで卒業できる大学なんて行かないほうが良い。学費の無駄である。これはむしろ最近の学生のほうがわかっている気がする。

ということで、学費を無駄にしないでたくさん勉強していっぱい成長したい人には、本学部・本学科はおすすめである。

アクセスも良く、それでいて自然豊かな明治大学生田キャンパスに新しい学生が来ることを心待ちにしている。

サードプレイスについて考える。

今日は雑記。でも仕事とも結構密接に関わることかもしれない。

5、6年前はまだ理化学研究所に勤めていた。子育てのもっとも忙しい時であり、多忙を極めていた。仕事も任期制の時で全く気の抜けない状況だった。

そういう状況でどうやってストレスを解消し、休息を取るかというのは、とても重要である。



5、6年前のピーク時は、シアトル系カフェに平均週7回行っていた気がする。

朝の出勤前に行ったり、ものすごく多い時には朝行って、帰りにも行くことがあったので、平均週7回だと思う。

赤ちゃんだった子供を抱っこして連れて行くことも多くあった。熱を出して子供が保育園などを休み、元気なんだけれど保育園に行くのはまだ止めておこうくらいの時には、少し息抜きに子供を連れてカフェに行っていた。

あまりにも行くので、店員ともすっかり仲良くなり、スタバのスタッフが書いたうちの子供の絵があったらしい。それくらい行っていた。

シアトル系カフェで共通することとしては、「商品だけでは割高」なことであると思う。はっきり言って高い。

飲み物だけで最低300円、ちょっと大きくしたりトッピングすると500円を超える。食べ物を頼むと1000円前後になる。

しかし、それだけでなく、居場所として居心地が良いのでいってしまう。いわゆる自宅、職場に続くサードプレイス(3番目の場所)である

それで5、6年前はまさにサードプレイスとしてシアトル系カフェを使っていた。そこで仕事をする人を「ノマドワーカー」と呼び、この言葉も割と認知されてきている。

しかし、すべて過去形で書いたように、今はスタバにはせいぜい週1回だろうか。コーヒー豆を買いに行くことを除けばもっと少ない。

理由は様々あるが、多くの人の現在の評価と一致している。

店が悪いわけではないかもしれないが、とにかく混んでいる。なかなか席が見つからず、また、見つかっても狭い。

また、無料Wi-Fiの接続状況がとても悪い気がする。今はファーストフードやコンビニですら無料Wi-Fiがつながる。これらと比べて、接続がすぐに切れる。ノマドワーカーが仕事をするには適していない(無料Wi-Fiに頼っていないのかもしれないが)。

さらに、最近はコンビニやファーストフードのコーヒーのレベルが上がった。100円で美味しいコーヒーが飲めてしまう。よくこれを100円で出せるなと感心する。

ということで、居心地がいまいちで仕事がはかどらないとすると、割高なお店になってしまう。

ということで、すっかり足が遠のいてしまった。それでもたまに仕事をしに行くが、毎回「うーん、いまいち・・・」と思う。

5、6年前は、ファーストフードが苦境で、ファーストフードはみんなシアトル系カフェに置き換わるのではないかと思っていた。

ところが最近、むしろ逆転してるところもある。シアトル系カフェが閉店して、ファーストフードが残る場所もある。

ビジネスは不思議で流れが大事だなあと感じる。とても流行ったビジネスも努力を継続していかなければあっという間に追い抜かれると思い知らされるサードプレイスビジネスである。

2018年1月28日日曜日

食パンとバター

上の子もだんだん大きくなり、友達を家に呼んで遊ぶようになってきた。抱っこ紐で抱えながらショッピングモールへ行っていたところ比べると、だいぶ手がかからなくなってきた。時の流れを感じる。

関東にも久しぶりに積雪があり、関東各地で最低気温の記録を更新するという寒波が押し寄せている。天気予報ではまた2月の始めに雪が降ると言っているのだけれど、どうだろうか。

先週・先々週と講義のテストに採点、D論審査(副査)それに大事な大学の業務もあり、それらが終わり一段落。でもこれからが本当に一番忙しい時期に入る。今年はまだ一番上が修士1年生なので、自分の修士論文はないが、副査はあるし、2月はとにかく予定がいっぱい入っている。

来年はいよいよ一番上が修士2年生(明大では博士前期課程2年と呼ぶ)になるので、修士論文を作成する年になる。大変になることだろう。

ただし、ここ2、3年の修士メンバーは恐ろしく優秀な面子がそろっているので、正直なんの心配もしていない。驚くほど優秀な学生たちである。最近外部の人たちと会うと、学生の自慢ばかりしている。学生の愚痴よりも自慢が多い先生というもの結構珍しいのではないだろうか。

唯一修論で大変になりそうなのは何かと言えば、「ミスは先生がチェックすると思っている」くらいだろうか。私自身が「仕事スピード命!」的なことを言っているので、それに合わせてややミスが多い気がする。

いや、最近気づいたのだが、うちの研究室の学生は成績(GPA)がすごく高い人たちもいるのだけれど、本人たちの能力に比べてびっくりするくらいGPAが低い人たちも多い(といっても、すごい低いわけではなく、恐ろしく優秀な能力に比べての話である)。

考えるに、「テストにおいて、ミスをしないで確実に点を取る」とか苦手なんだろうなと思う人たちが結構来ている気がする。実は、自分もテストとなるといつも一番に提出して、じゃあ満点かというとたくさんケアレスミスをするタイプだった・・・。うちの研究室らしいのかもしれない。

とはいえ、大事なところではミスをなくさなければいけない。実験では安全に関わるところはミスでは許されない。また、予算の執行に関することもそうである。自分の場合は、大学業務ではミスがニュースになってしまうこともある。こういう時はエネルギーをたくさん使ってミスをなくさなければいけない。

と、こんなことを食パン(ホテルブレッド)にバターを塗りながら食べている日曜の昼下がり。なんでこんな時間に食パンを食べているのか、疑問に思うかもしれないが、自分でもよくわからない。本能である。。

こんなふうにぼんやりと考えて、食パンを食べる時間が生まれたのも、子供が大きくなったからである。小さい頃は無我夢中で大変だったし、成長は嬉しいのだが、当然寂しい気持ちもある。人間とは贅沢なものである。

寒い日なので、午後はのんびりと家ですごす日曜日でした。

研究室は何の役に立つのか?その8 努力を継続できるか?

研究室は何の役に立つのか?その8は努力を継続できるかである。

くどいかもしれないが、環境バイオテクノロジー研究室では、判断力、コミュニケーション力、努力を身につけることを目指している。

良い成果を出すには努力が必要である。

・・・あまりにも当たり前すぎるかもしれない。

しかし、残念ながら誰もができるわけではない。

まず第一に、努力の方向性が間違っているとどんなに努力しても良い成果が得られない。これは判断力の問題であるけれど、「こんなに頑張っているのになんで!?」とつい感情的になってしまうという広い意味で努力に関する問題でもある。すなわち、努力すればいいというものではなく、努力が目的になってはいけないということである。

これは結構日本人が陥りがちなポイントではないかと思う。

この点に関しては、1年生の学生実習や講義から徐々に慣れてもらっている。私の学生実習のレポートでは、1年生には「何々について書きなさい」と、それなりに課題などを指定しているが、2年生に対しては「実験終了、じゃあレポート書いてきてね」ということになっている。

当然、「何について書けばいいのんですか!?」と聞いてくる人もたくさんいる。問題が提示されるのが高校までの勉強であるからその習慣がなかなか抜けないのは仕方がない。

しかし、これからは「何を頑張るか」が大事なので、努力しても方向性を間違えると良い点がつかないことが多い。これをだんだんに味わっていってもらうのである。

また、努力は当然継続しなければならない。研究生活にはいると、大学受験のようにわかりやすいゴールはない。論文は1つのゴールであるが、終わりというわけでもない。なので「これはいつまでやればいいんだろう・・・?」と考えてしまうと、急激に疲れてしまうことがある。

研究室では「休むのも仕事」と繰り返し学生に言っているが、継続的なものであることを意識してほしいと考えている。

これは自分の失敗体験からで、大学院生時代は週7日研究室に行っていて、ピークは1年間に360日くらい研究室にいたと思う。しかし、仕事効率は全く良くなく、つまらない失敗で1ヶ月が無駄になったということもあった。恐ろしくボロボロになったのを覚えている。これは一見努力しているようだけれど、効率が下がっているので、適切な努力とは言えないと思う。

このように、一口に努力をすると言っても方向性や継続性を意識しなければ、トータルとしてあまり努力していないのと変わらなくなってしまう。もちろん試行錯誤しながらだけれど、研究室では努力の仕方を学ぶことができると考えている。

2018年1月27日土曜日

研究室は何の役に立つのか?その7 飲み会や研究室旅行の幹事

研究室は何の役に立つのか?その7で飲み会や研究室旅行の幹事について。

どこの研究室でもそうだけれど、新人歓迎会から忘年会、追いコン、さらにはお祝いや研究室旅行などのイベントがある。

自分が大学院生はこれらに対してどういう気持ちだったかというと、かなり否定的であった。飲み会自体は楽しいのだけれど、研究で疲れている中で毎回毎回余裕があるはずはなくできればやめてほしいと思うこともしばしばあった。

特に幹事などの仕事の場合、急に参加人数が変わったり、内容にクレームが付いたりと、ボランティアでやっているにもかかわらずネガティブなことがあって、本当にいやであったことを覚えている。

では今になってどう思っているかというと、「幹事などの経験は役に立つ」ということである。やっておいてよかったと思っている。

ポスドク時代でも、結婚式のお祝いの会の幹事を急に振られて50人以上参加する会を開催したことがある。今でもゲストが来たのに、話してはい、さようならというわけには行かない。むしろ、そういうものを通して、人間関係のネットワークを構築していくのが今の仕事と言っても過言ではない。上になればなるほど必要になるのである。

会社の新入社員が幹事をたくさんやらされるのは、いうまでもないと思う。確かに大変ではあるのだけれど、人をもてなすというのは職種に限らず大事なことである。決まり切った作業をするだけで完結する職種なんてあまりないと思う(あったとしたら、人員の交換が可能であるという心配をしたほうが良いと思う)。

このように、人をコーディネートする力も社会人として要求される。自分は嫌であったのだけれど、今になって振り返ると必要だったなと感じる。

今は大学教員として、明治大学生田キャンパスに異動したが、近くにいい店でも探さなければと本気で思っている。御茶ノ水と異なり、周りに店が少ない。ゲストが来た時にはアクセスのことも考えなければいけないので、そういう準備もしなければいけないと考えている今日この頃である。

要するに、社会人になっても幹事をするみたいな仕事は避けられないし、むしろ失敗できないということである。

研究室で幹事をやってなんか失敗しても、基本的には笑い話で済むはずである(よほど怖い研究室でない限り)。飲み会や研究室旅行の幹事に限らないが、研究室というのは安全に関することを除いて、「失敗してもいい空間」であるので、色々とチャレンジしてほしいと考えている。

その8に続く。

2018年1月26日金曜日

論文不正と責任問題

大寒波が襲っている日本列島。SNSでノーベル賞受賞者である京都大学山中先生のiPS研究所が問題になっている。

山中先生が所長を務めるCiRA(サイラ)において、特任助教の方が米科学誌ステム・セル・リポーツに発表した論文に不正があったとのことである。測定データと実際にグラフ化したデータが異なるというものである。ようするに、データを都合のいい数値にしてしまったということである。

当人が処分されるのは当然として、問題になっているのは「所長である山中先生に責任があるのか?」についてである。この辺りが論文のシステムをわかっていない人によって、「なんでもいいから責任を取れ」という流れで報道されている。

当該論文については、山中先生の研究室の論文でもないし、論文の著者にも入っていない。

最近の学術論文は、一人の著者で論文を書くことが少ない。特に、実験系の研究では、様々な実験系・解析を必要とするため、著者が複数になることが普通である。10人、20人になることもある。

このうち、筆頭著者と責任著者がもっとも大事な著者になる。筆頭著者とは文字通り最初に名前を連ねる著者であり、責任著者は最後に名前を連ねることが多い。筆頭著者が複数になることもあるし、筆頭著者が責任著者を兼ねることもある。

今回の問題では、山中先生は所長ではあるものの、筆頭著者でも責任著者でもないし、論文の著者ですらない。ということは何かと言うと「出版前に論文を読むことはできない」

研究成果は大学などの所属機関のものなので、厳密には強権を行使すれば読むことは可能かもしれない。しかし、所長がすべての論文に目を通していたら、所長の業務など全くできない。それぞれの責任著者(通常は研究室の所属長、PIという)に責任を委ねるしかない。

反対に、所長が読んで論文を出版してはいけないと言われたらどうだろうか?所長に恐ろしい権力が集中することになる。所長がダメと言ったら、その研究者、研究室は成果を全く出せなくなるのである。こんなシステムが構築されたら研究機関の終わりである。

今回の件で山中先生が責任をとるとするならば、「所長は論文を差し止めることもできないけれど、責任はとらなければならない」である。講習会でも開いて差し止めることができるのならば苦労はしないだろうが。

所長のみならず、責任著者となることが多い研究室の所属長としても難しい問題である。あからさまなコピペや捏造は見破らなければいけないかもしれない。しかし、適度にばらけさせたデータを作られたとしたらを見破ることは非常に難しいかもしれない。どうしても検証したければ自分か他の人が全く同じ実験をしなければいけないし、そんなことをしていて論文が出版できずにその人が学位を取れなかったり、職を失ったりしたら、間違いなくハラスメントで問題にされるだろう。大事なデータの再検証は大事であるが、限界もある。

では、このような不正の時にどうすればよいかといえば、不正が見つかったらさっさとその論文を取り下げ(リトラクションという)、当人を処分して終わりにすることだと思う。記者会見なんて必要ないし、所長がでてくる必要もない。

ただし、分子細胞生物学研究所で起こった研究室ぐるみの場合には、研究室そのものの閉鎖があるので、所長がでてくることも必要かもしれない。しかし、それにしてもどうしたら不正がなくなるのかなど、「今後どうしたらもっと良くなるのか?」について議論すべきだろう。

政治家の例が一番顕著かもしれないが、問題が起こるとトップを辞任に追い込もうとする「切腹文化」は、日本の大きな問題であると思う。

ついこの間、作曲家の小室哲哉氏が不倫疑惑で芸能界を引退した。辞めざるを得ない空気が作られたが、責任をとるならば辞めるのではなく、「最高の音楽を作る」にしてほしいと思う。

今回のケースでも、こういう問題を解決して「どうしたら日本発のiPS研究がより発展するか」なんて議論が全然ない。有名人が辞めるか辞めないか、給料を返上するかしないかなどの話である。どのような選択をするにせよ、責任の取り方の議論を間違えていると思う。

「こんなことが起こったのだから、研究所一丸となってiPS研究を発展させ、病気などで困っている人々を救ってくれるんですよね?」

責任を取ってもらうならば、ぜひ頑張って人々を救ってもらいたいと思う。


◯分子細胞生物学研究所について 上に分子細胞生物学研究所と書いたが、こちらは東大付属の研究所である。通称、分生研(ぶんせいけん)と呼ばれている。

私は大学院の修士、博士はここに所属していた。

博士の学位取得後ですでに私は分生研にはいなかったのであるが、加藤教授そして渡辺教授と2つも大きな研究不正が起こったのがこの分生研である。ニュースを聞いた時は「耳を疑った」としか言いようがない。

加藤研究室は分生研でもっとも力のある研究室だった。研究室は40〜50人もの人を擁し、毎年のようにNature, Cellなどに論文がでる研究室であった。

ただし、厳しいことも有名で、毎年たくさん人が来てはたくさん辞めるという話は聞いていた。その当時は成果の要求が高すぎるのだと思っていたのだけれど、それだけではなかったのだと、このニュースで合点がいった。

当時所属していた学生からの話では、「先に論文が書かれていてデータを持っていく」なんていう話はちらっと聞いた。ただし、それは「それくらい論文の計画がきちんとしていて、理論構築ができている」という印象だった。専門が全く違うせいもあるが、中身はわからなかったし、当時も分生研内で加藤研が不正をしているという噂はなかった。

一方、渡辺研の話は最近のことであるが、こちらも衝撃であった。渡辺先生はちょうど私が大学院生の時に教授として移って来られた。日本の分子生物学業界の中心のような研究室の流れを汲み、分生研の中でもあまりにもすごい業績で光り輝いていた。成果のプレッシャーは凄そうだったが、正直、雰囲気もよさそうに感じた。すごい研究室だな、さすが日本の真のトップ、という印象だった。

渡辺研についてはすべての論文が不正という感じで、出身の研究者への広がりは比較的少ない。しかし、研究室が閉鎖されてしまったそうで、本当に驚きである。

これらは非常に目立った例であるけれど、論文を査読をしていると疑問を感じることも多々ある。

グラフの差が少なく、有意差がないという指摘をしたら、「データが間違いでした」といって、差が広がったデータをすぐに出してきた著者もいた。しかも、2つのグラフともに間違いだったそうである(当然リジェクトにして、その後のリバイスは断ったが、最終的にはアクセプトになったようだが)。

また、誤差の大きそうな分析実験を確信犯的に1回の実験(n = 1)で論文にしている人もいる。論文には試行回数(n数)は書いていない。当然エラーバーもない。

どちらも日本のグループの話である。

今回の山中先生のように、不正を指摘すると組織の問題になってしまうから問題がでてこないのだろう。不正をした人を処分して終わりにすれば良いが、「トカゲのしっぽ切り」のようなイメージを与えてしまい、組織のイメージダウンになるという世間体を気にしてのことである。また、全然関係の人々が時間と労力を取られることも問題である。

いずれにせよ、いかなる議論もさらに良い組織・システムを作るためにして欲しいと思う。そうすれば、おのずと議論することは決まってくるし、責任の取り方も違った形になると思う。

研究業界は任期制で働く人が多く、みんな苦しい中働いている。必要のないことを要求して、邪魔をしないで欲しいと強く願う。周りの人たちは科学とは直接関係なくても、科学の恩恵を受けることは多々ある。ゴシップのような間違った議論を発展させず、(知的好奇心の刺激も含めてだが)科学が人の役に立つよう方向に導いて欲しいと思う。日本は科学技術立国と標榜している国なのだから。

多摩川の流れに癒される

最近ブログがちょっと説教臭くなっている。この間の特研ガイダンスでは2年生に向かって「面倒なところは読まないでください」と言ったのだけれど、ぜひそうしてください笑。

ということで今日は少し違う話題を。

明治大学生田キャンパスは、神奈川県川崎市多摩区にある。一番最寄りの駅は小田急線の生田駅である。

また、職員バスは隣の小田急線向ケ丘遊園駅に到着する。その向ケ丘遊園駅から徒歩5分で、小田急線・JR南武線の登戸駅がある。登戸には大きな市立病院もあり、交通・生活のターミナルでもある。

その登戸駅から歩いてほんの5分ほどで多摩川に到着する。
ここには二ヶ領宿河原堰という堰・水門がある。にかりょうしゅくがわらと読む。自動変換では出てこない。。
ここは、40年前の1974年に洪水が起きた場所でもあるらしい。狛江水害という名前がついているくらいの災害で、この都市部で起きた洪水である。多摩川水害とも言う。

上の二ヶ領宿河原堰は新しいものであるが、古い堰を作ってしまったために、水流がここで滞ってしまい、結果としてこの地点で堤防が決壊したとのことである。濁流に家が呑み込まれるという自体が発生したが、不幸中の幸いとして死傷者はいなかった。

この水害は、「人災」とされ、家を流された住民は、国を相手に裁判を起こし、住民側が勝訴したとのことである。

現在は上の写真のように新しい二ヶ領宿河原堰になっている。また、多摩川決壊の碑というもの立っており、水害を忘れないようにしている。天災は忘れてしまうのだけれど、これらの教訓を残しておくことは本当に大事である。

川の水をすくってみたのだけれど、非常に透明度が高く、匂いもなかった。都市の河川というとあまりよいイメージがなかったのだが、とても綺麗に感じた。

たった5分登戸駅から歩くだけの場所だけれど、明治大学赴任後3年目にして始めて多摩川に行ってみた。自然というものはとても不思議で、少し川辺に行って、川の水をすくっただけでとても癒される気分になる(このメカニズムを知りたい。。)。
現在は綺麗な多摩川であるけれど、汚すのは簡単である。うちの研究室も環境バイオテクノロジーと名前がついているけれど、はやく環境に良い技術を世の中に提供したいものである。

2018年1月25日木曜日

研究室は何の役に立つのか?その6 研究室でのビジネス

研究室は何の役に立つのか?その6はビジネスについて。

大学の先生というと本に囲まれた研究室にいて、自分の興味のある研究の文献を読んで、実験系なので実験をして論文にまとめる、なんていうイメージがあるのかもしれない。

残念ながらそんな優雅なことはできない。

特に実験系の生物学では試薬やプラスチックチューブ、抗体、培養関連製品などの消耗品から分析機器などが必要である。それ以外でも、ものが壊れたら修理が必要だし、論文を出すにもお金がかかるし、印刷に使うトナーなども支払う必要がある。

常に予算のことを考えて、伝票と格闘しているのである。

どこの研究室でも問題になるのだけれど、共通の物品を特定の人ばかり発注していたりして、不平等になってしまったりする。それを是正しなければいけないという問題はさておき、きちんと物品を発注している人は、研究室を中心としてビジネスが繰り広げられることを目にしているはずである。注文をしたことがなければ製品番号とLot番号の区別もつかないはずである。

物品の発注の仕方も最初はわからないので、注文には何が必要かがわからない。また、類似の機能を持つ製品は以外とたくさんあり、比べてみないとどれが適切なのかなかなかわからない。それを選んで発注する。たまに間違えて高いものを発注したり、数量を間違えて叱られるというのは誰しもが経験したことがあるのではないだろうか。

こういうのはビジネスの基本中の基本であり、発注の数量ミスで今月の利益が吹き飛んだなんていうのは当たり前にある話である。

また、代理店もわざわざ安い値段を言わないこともある。相手の言うことを鵜呑みにして、チェックせずに買ってはいけないというのも基本であり、これも研究室で学ぶことになる。

製品が届いて支払いを行うには、見積書・納品書・請求書という3点セットが必要である。これらを見たことがないのであれば、研究室で学べることを損してしまっているのかもしれない。

学会なんかにいって、旅費の手続きをするのも良い勉強だろう。最初に手続きをしようと思うと、領収書やチケットの控えを捨ててしまったり、出力を忘れてしまって、再発行に駆けずり回るというのも多くの人が経験していることだと思う。終わった後は出張報告書が必要だし、最近だと現地到着の証拠書類なんてものも必要だったりする。移動した時にどういう書類が必要で、お金がどのように廻っているのかについて勉強する機会になると思う。

さらにうちの研究室では企業と連携しているので、学生と言えども対等な関係で研究の話をすることになる。研究の中身が中心であるのだが、契約が必要になるのでそういうのも垣間見ることになる。「一緒にやりましょう」、「はい、やりましょう」では共同研究は成り立たないのである。

人によっては特許についても勉強することになるだろう。特許出願を行った学生も出てきており、その特殊な世界には驚いていた。知的財産権は、日本のような資源のない国にとっては非常に重要だし、修士を取って研究職を目指す人にとっても必要不可欠である。

最後に付け加えると、こういう交渉を教員はしていて、たまに学生には見せない怖い顔をしていることがある。こういう姿を見るのも勉強の一つであると思う。

このように、研究室と言えど、社会の中で動いている一組織であり、ビジネスとは切っても切り離せない。研究室でビジネスに関与していないという人は、単に自分がやらなかったか気づかなかっただけである。直接的ではなくても、優秀な学生は気づいて色々と学んでいる。

正直言うと、最初に出てきた優雅な研究者をやっていたいのであるが、そんなことは不可能であるので、いやでもビジネス的な側面を見ることになるだろうと思う。ビジネスの視点で研究室を見てもらうと、新しい一面が見えるのではないかと思っている。

2018年1月24日水曜日

次世代研究メディア戦略 〜SNSで研究成果を発表〜

最近、新しい試みを始めている。それはInstagramなどのSNSを使った研究成果の公開である。

環境バイオテクノロジー研究室 インスタグラム公式アカウント
https://www.instagram.com/meiji_biotechnology

このようなことをはじめるに至ったのには理由がある。

当環境バイオテクノロジー研究室は、明治大学農学部農芸化学科に所属している。明治大学は就職がとても強い。農学部ということもあるが、理系であっても大学院に進学する学生が3割前後である。国立の理系であれば、修士課程への進学率は少なくとも5割以上、8割以上に達する学部もあると思う。

農学部農芸化学科の場合、3年生から研究室に所属するので、2年間は研究をする時間がある。通常は4年生からだと思うが、学部卒で就職する人が多いと卒業研究が1年間だけでは全く研究室が廻らないと思う。2年間卒業研究があるシステムは非常に素晴らしいと思う。

当研究室では、学部生であっても国際誌に論文を発表している。これは珍しいことで学生は非常に頑張っていると思う。しかし、授業があり、就活もあり、アルバイトなどもある中では限界もあると思う。

論文発表というものは、非常に長い時間と多大な労力を有する。1年、2年、それ以上の時間をかけて実験を行い論文にまとめる。それを投稿するが、審査に最低1ヶ月。それでリジェクト(不採択)ならば一からやり直し。リバイス(改訂を要求されること)であったとしても、どんなに早くても1ヶ月。1年以上かかるであろう追加実験を要求されることもある。

さらに、リバイス論文を投稿してもリジェクトされることもある。論文を投稿してからアクセプト(採択)されるまで1年以上かかることも別に珍しくない。というか、そちらの方が多いかもしれない。

このような状況から、国際誌に発表するだけが研究成果を世に出す方法だろうか?と考えるようになった。

もちろん、論文は絶対大事である。審査なしで焦って発表して間違った結論を出してしまうこともある。じっくりと読める媒体が必要なことは言うまでもない。

一方、「やってみたけれどあまりうまくはいかなかった」、「この結果を論文にする時間はない」などの場合には、論文以外の方法で発表してもよいと考えた。

学会発表などもあるが、学会発表の場合は、要旨は残るけれど、画像などは残らないことの方が多い。また、学部生にとっては学会発表はよい機会であるものの、それほど簡単なものでもない。学会の時期は限られているので、速報性も低い。

そこでSNSの登場である。インスタグラムが最適なのかはわからないけれど、SNSでの研究発表というのもありなのではないかと考えた。



例えばこれはシアノバクテリアをチューブで培養した様子である。シアノバクテリアの場合、いかに光を当てるかが重要なので、自由に形を変えられる培養を試してみた。

ところが、ポンプの力を強くしないといろいろなところにシアノバクテリアが蓄積してしまうなどの問題があり、思ったようには育たなかった。

こういう結果を論文にするのは、難しい。労力に見合う成果が得られるとは到底思えない。しかし、「こういう培養はうまくいきませんでした」という情報も、研究者に役立つと思う。

ということで、新しい研究メディア戦略として、インスタグラムでの研究発表を始めることとした。ブログやツイッターでも発表していくと思う。

はたしてうまくいくかはわからないけれど、別にうまくいかなかっとしても損害はなにもない。すぐに辞めることができるのもSNSの手軽さだと思う。

また、このブログも発表手段の一つでもある。ブログは日記のようなものを公開するのが原型だったと思うが、もはや研究の一部であるといっても過言ではない

ということで、次世代研究メディア戦略としてのインスタグラムがどうなるか、チャレンンジしてみたいと思います。ブログでも研究関連情報を発信していきます。

2018年1月23日火曜日

雪で帰れますか?

これで大雪と言ってしまうと、北国出身の人から笑われてしまうかもしれないけれど。

10〜20 cmの雪で混乱してしまうのが、首都圏の交通機関。あらかじめわかっていても遅れてしまい、大混雑になってしまう。自然の強力な力には逆らえない。

昨日はたまたま講義や実習などもなかった。今週からテスト期間であるし、今の時期は週末に仕事が多い。なので、早く帰ることができた。早く帰ってなかなかいけない病院なんかにいくことができたのでとてもよかった(風邪ひいていたわけではなく、喘息を治療しようと思って)。

帰るのが遅れたら大混雑だったので早く帰って正解であった。子供のお迎えなどもあったので。

SNSなどを見ていると、早々に帰宅命令・在宅勤務が出た例が結構あった。少しずつであるが、最近は労働環境を考える企業も増えてきたのだと思う。自然災害は油断してはいけないと思うので、とても良いと思う。

SNSでは、「こういう日に早く帰れるようにするのが当たり前になるように、早く帰れた人は拡散してください」とあった。人を守るには良いことだと思う。

ただ、若干複雑な気持ちもあり、昨日は帰宅後に預かり保育所に子供をお迎えに行ったが、子供たちはたくさんいて、そこで働いている人は帰れない。

他にも交通機関で働いている人や病院で働いている人など、帰れない人もたくさんいると思う。こういう人たちに対して、「帰れました自慢」になってしまうととても心苦しい。だからと言って、「じゃあ、私も帰らない」なんてしても誰も嬉しくないので、帰れる人は帰るのが正解だとは思うが。


こちらは本学生田キャンパスの様子。生田キャンパスは、建物にして5階分くらい登った小高い場所にある。なので、ここだけ雪が激しいことが多い。こちらは昼過ぎの様子。まわりよりもたくさん降っていたように思える。

昨日は、1〜4限(17時まで)は通常通りだったようである。幸い、授業期間とテスト期間の間で、人は少なめだったようではあるけれど。テスト期間がずれるとそのあとの成績集計そして同時に進められている各種入試業務とバッティングする。安全が最優先であるが、難しい判断を迫られていることだろう。

久しぶりに関東で降った大雪。働き方や仕事での責任・判断など、いろいろと思うところがあるが、答えのない問題もたくさんある。いずれにせよ、安全を最優先に行動してもらいたいと思う。

研究室は何の役に立つのか?その5 トークで人を楽しませられるか?

研究室は何の役に立つのか?その5はトーク力についてである。

これまでの記事で何度も書いているが、環境バイオテクノロジー研究室では、判断力、コミュニケーション力、努力を鍛えてほしいと考えている。

前々回は説明責任の話。自分の行動を説明できるか、それはすなわち自分の行動に論理があるかということであり、説明できる場合は非常に効果的な選択をしている確率が高い。

前回はコミュニケーション力の話で、研究室で何をやろうとしても人と話さなければ行動できない。報告・連絡・相談を怠って行動しようとするとトラブルの元である。また、叱られたりしてコミュニケーションを取らなくなるのも、成果が挙がらない大きな要因となる。勇気を持って話せば、「今まで何を悩んでいたんだろう?」と、あっけないくらいに問題は解決する。

今日の話は、コミュニケーション力におけるプラスアルファの話。

コミュニケーション力で他人と連携できるようになるのが必須であるが、プラスアルファとしてやはりトーク力を身につけることが必要であると思う。

自分自身も得意ではなかったのだが、やはりその人と話して楽しい時間を過ごせるかどうかは非常に大事であると思う。たとえ仕事であっても、「この人と一緒に仕事をしたい!」と思わせれば仕事はよく進むし、反対に「この人とはちょっと・・」と思えば仕事は滞るようになる。

研究室の飲み会などは、昔はどちらかというと否定的な方であったのだが、現在ではやはり多少は必要であると考えるようになってきている。

もちろん飲み会である必要はなくて、研究室の中で普通に会話すれば事足りるのであるが、仕事・研究で忙しかったりするだろうし、お酒の力がないと先生や先輩に言いたいことが言えなかったりする人もいるだろう(そうならないように頑張った方が良いとは思うのだけれど)。

営業の人の話を聞いていても、いきなり「我が社の製品は・・・」なんて説明から入る人は成績がよくないとのことである。極めてオリジナリティが高くて素晴らしい製品だったら良いかもしれないが、競合があるような製品・サービスの場合には人間力も大事である。

上手な営業の人は必ず関係のない世間話を入れるという。営業職に限らず、研究職だって研究の話だけをして、はい、さようならというわけではない。事務職の人だって話しやすさによって能率がガラリと異なることは言うまでもない。

前回、前々回の話ともややかぶるが、やはりトークで人を楽しませることは、社会人として必須であると思っている。

ただし、トーク力がある=人から笑いが取れる話ができるというと、いきなりハードルが上がってしまう。できるに越したことはないが、これはかなり難しいと思う。

人を楽しませる基本は、会話が成立することが大前提である。特に自分の話ばかりしたりしない、悪口ばかりにならない(たまには憂さ晴らしも必要だろうけれど笑)、自慢や説教ばかりにならないなど、「相手を不快にしない」ということでも充分だと思う。

また、「聞き役に廻れるか?」というのも大事であると思う。どうしても自分の話をしたくなってしまうのが人間の性(さが)なのかもしれない。この点は自分もまだまだ成長が足りないところだけれど、うまく聞き役に廻れる人というのは、すごく周りの人とうまくいっているように見える。こちらもやろうと思えばそんなに技術を要するものではない。少し意識すればできることなのではないかと思う。

ということで、コミュニケーション力をあげるには、1) 相手を不快にしないように気をつけて、2) 適度に上手に聞き役廻る ができれば良いと思う。もちろんコミュニケーションを頑張って始めることが大前提であるけれど。

このようなことは研究室でも鍛えらえると思うので、ぜひ積極的に研究室で練習をしてほしいと考えている。



2018年1月22日月曜日

微細藻類のいろいろな培養方法を試してみたが・・

当環境バイオテクノロジー研究室では、シアノバクテリア、ユーグレナ、シアニディオシゾンなどの微細藻類の研究を行っている。

微細藻類の培養には、植物インキュベーターというものを用いている。うちの研究室では、トミー精工やパナソニックなどの植物インキュベータなどを用いている。これらを用いて、温度や光強度を制御している。また、自作で流路を作製し、二酸化炭素を足した空気を送り込んで微細藻類を培養している。
人工気象器(植物インキュベーター)

植物インキュベーターによる培養では、厳密に温度や光強度などの培養条件を制御できる。一方で、応用展開を考えた場合、必ずしもこれらのパラメータがすべて厳密に制御できるとは限らない。むしろ、スケールアップすればするほど制御できない部分が出てくるのである。

また、大量に培養する際に、巨大な植物インキュベーターを作るのはコストがかかる。

そこで、応用展開に向けて培養法そのものを開発していく必要がある。

実用化されている微細藻類では、野外のプールで培養されていることが多い。オープンポンド(開放池)やレースウェイなどと呼ばれる培養系で培養されることが多い。

そのほかにもプラスチックバック、いわゆるビニール袋のようなものに入れて微細藻類を培養したり、展示パネルのように固体にくっつけて培養するなどの方法で培養しているベンチャー企業もある。

しかし、このように色々な方法があるということは、裏を返すと最適な培養方法が見つかっていない、培養方法そのものに研究の余地があるとも言える。

微細藻類の場合、他の発酵に用いる微生物と異なる点は、光を要求することである。産業に用いる場合、できれば少ない容量の培養系で高密度に育つようにしたいのであるが、育てば育つほど培養液が濃くなり、光が届かなくなってしまう。この光が届かないことが律速となり、増殖が止まってしまうのが微細藻類の難しさである。

現在では、できる限り浅いプールなどで培養するであるが、そこが浅い分容積が稼げず、広大な敷地が必要となってしまう。

そこで環境バイオテクノロジー研究室でも色々な培養方法の開発を行っている。

写真はプラスチックチューブで培養した図である。内径は6mmである。
これは単細胞性シアノバクテリアであるシネコシスティスの培養の様子である。左上に写っているのがチューブポンプと言って、チューブを連続的にこすることによって中の液を移動させるポンプである。全長5mくらいのチューブで培養してみた。


左端に見える温浴で一部の細胞を最適温度である30度に温めて、全体を循環させている。また、その部分には1%の二酸化炭素を含む空気を導入し、光合成を促進させている。


光がよく当たるように、こんな風にチューブを窓にかけてみた。これで光合成がよく働きたくさん増えるはず・・・であった。

が、実際にやってみると、ポンプの力が弱く、ところどころで細胞が溜まってしまっていた。ポンプの力を強くすれば可能かもしれないが、あまりにも大量のエネルギーを投入したのでは、環境技術の意味がなくなってしまう。

ということで、やってはみたものの、研究室レベルではチューブ培養はあまりうまくいかなかった。ただし、今回はチューブポンプを使ったが、攪拌に自然エネルギーなどを使えればよいかもしれない。川沿いにある水車が良い例である。川の流れの力を利用して、水車を回転させる。このようにうまく組み合わせれば、少ないエネルギーで十分に攪拌できるかもしれない。

ということで、この培養法の開発はあまりうまくはいかなかったのであるが、当研究室ではこのような研究も行っている。新しい培養系の開発を行ってみたい学生も大歓迎である。

2018年1月21日日曜日

研究室は何の役に立つのか?その4 コミュニケーション力

研究室は何の役に立つのか?その4はコミュニケーション力である。

環境バイオテクノロジー研究室では、判断力、コミュニケーション力、努力を鍛えてほしいと考えている。

今日の記事は2番目のコミュニケーション力についてである。



研究室で何かをやろうと思ったら、全く動けないことに気づく。

最初は試薬がどこにあるかもわからないし、使っていいかもわからない。器具も分からなければ、装置なんて分からないで使うことは非常に危険なので絶対に禁止である。

基本的には上が教えてはくれるが、上も非常に忙しい。何も考えず、勉強せずに「わからないので教えて下さい」と言って、「勉強してからきて!」と叱られるのは、誰しもが通る道である(誰しもが通る道なので、改善すればよい。絶望する必要はないし、それで研究室に来なくなってはいけない)。

教える方も全く勉強していない人に教えるのではいくら時間があっても足りない。また、教えても全部覚えきれないので、また同じことを質問されることになる。

このようなことを避けるために、例えば装置については説明書を読んでから質問をする、プロトコールなども研究室のものやウェブにあるものを調べてから質問をするなどが大事である。

実験結果をディスカッションするにしても、全く整理していない生データを見せて、どのデータが何を指すか自分でもわかっていない状態では相手の時間を浪費するだけである。効果もない。いきなり電気泳動の写真を持って行ってディスカッションをしようとしても、相手が理解することは不可能だろう(これは自分も大学院生時代に叱られた)。

このように「自分でできる限りの準備を事前にしてから相手とのコミュニケーションに臨む」のが大事であり、自分の能力アップにも効果的ある。

コミュニケーションが苦手です!という人も結構多いのだけれど、何の準備もなしに、「さあ、話しましょう」と言っても、世間話以外のコミュニケーションなんてできるわけがない。準備ができているかどうかである。

これは研究者に限らない。某化学メーカーの営業職に従事している友人は、「顧客と会う前に、顧客の書いた論文などを読む」と言っていた。ただ単に「お願いです、買ってください」では通用しないことは自明である。アカデミックや研究職ではないから論文なんて関係ないと思ったら大間違いである。

また、報告・連絡・相談のホウレンソウが大事であるというのは、社会人のイロハである。周りの社会人を見ていて、よくトラブルを起こす人は、この報告・連絡・相談ができない人が多い。一言言っておけば済むものをもじもじ言わずにすましてしまい、大きなトラブルに発展するのである。こういうケースはたくさん見てきた。

さらにもう一つ大事なことは、叱られたり、嫌なことがあったりするとコミュニケーションをとらなくなってしまうことである。研究業界でもそうだけれど、コミュニケーションを取れなくなった人から成果が挙がらなくなっていく。

私自身も未だに叱られたりするのだけれど、嫌な事があっても勇気を持ってコミュニケーションをとるようにしている。勇気を持って話しかけると、「何を悩んでいたんだろう?」と自分でも不思議になってしまうくらい、人間関係の問題は解決する。この勇気を出せるかどうかで職場の楽しさが変わってくると言ってもいいと思う。

会社でも、叱られたりするなど、少し困難なことがあると途端にコミュニケーションを取らなくなってしまう人がいる。そうすると、たとえどんなに技術があっても仕事は進まなくなる。会社で不遇を囲っている人にはこのような人が結構多い。

研究室では、「勇気を持って、頑張ってコミュニケーションをとる→叱られてもさらに改善して次回のより良いコミュニケーションにつなげる」を繰り返すことが大事であると考えている。

言うのは簡単で、実際に自分自身もできなかった苦い思い出がある。難しいと思うが、ぜひ若いうちから挑戦してほしいと考えている。

その5に続く。

2018年1月20日土曜日

フィコシアニンキャンドルの作製

工作室シリーズの今回はフィコシアニンキャンドルの作製である。

まずフィコシアニンとは何かと言うと、青色の色素である。そんな色素の名前を言われても知らないよ、という人がほとんどである。しかし、有名なソーダ味のアイスである「ガリガリ君」の名前を出すと、ほとんどすべての人がガリガリ君を知っている。そして、あの青色がフィコシアニンですというと、「そうか、食べたことあるんだ・・」となる。

このフィコシアニンはスピルリナというラン藻から抽出されている天然の色素タンパク質である。色素というとなんとなく化学合成で体に悪いイメージがあり、特にあのようなくっきりとした青色なので、きっと良くないと思うかもしれないが、こちらは長い食経験もあり、かつタンパク質なので、体に悪いことはない。むしろ、健康効果が学術論文レベルでは報告されている。

フィコシアニンは綺麗な青色なのでわかりやすく、学生実習にも利用している。タンパク質の濃縮や分光光度計の利用、SDS-PAGEなどを行っている。

話が逸れたが、今回はこのフィコシアニンを使ってキャンドル(ろうそく)を作ってみた。

手作りキャンドルは、材料が100円ショップなどでも売っているくらいメジャーである。

キャンドルは、ロウソクというだけあり、蝋(ろう)を固めて作るものである。蝋は英語で言うとWax(ワックス)である。

蝋は、動物や植物から取られた油脂を含むこともあるが、主には石油から合成されている。炭化水素(炭素と水素だけなからなる物質)を持つエステル(-COO-という結合を持つ化合物)である。


蝋は室温では固まっているが、熱をかけると液体になる。そこで一旦熱で溶かしてから、上記のような耐熱性の容器に入れて固めるのである。その際には、火がつくような芯となる部分を入れておく。芯の部分も手作りキャンドルコーナーには必ず売っている。

蝋を溶かしてキャンドルを作るのだが、それだけでは面白くないので、色をつけたり飾りを入れたりする。キャンドル作りのプロもいるくらいである。

私の場合プロではないので、何をしたかというと、上述したフィコシアニンを入れてみた。このフィコシアニンは、シアニディオシゾンという紅藻から抽出したものである。

蝋は脂溶性であり、フィコシアニンは水で抽出した水溶性のタンパク質である。蝋の上からたらすと、蝋とは混ざらずに、上のように球形になって青いフィコシアニンのボールができた。

完全に蝋が固まる前に、フィコシアニンを滴下してみた。その後、スマホでタイムラプスの写真を撮ったのが上の動画である。タイムラプスとは、一定時間ごと(2、3秒ごと?)に写真を撮ってそれらをつなげて動画にすることである。

そうすると、フィコシアニンのボールが徐々に沈んでいく様子を撮影することができた。

いや、だからなんだと言われても困るのだけれど笑。。

と、このように、青色色素フィコシアニンは、食用として使われるだけでなく、手作りキャンドルの材料としても利用できるのである。現在、フィコシアニンの利用法を考えているところである。良いアイデアは大募集中です。

※火を使う場合には、火事や火傷に十分ご注意ください。

2018年1月19日金曜日

コハク酸結晶の作製

新しいブログカテゴリーとして、「工作室シリーズ」を作ることをふと思い立った。

私の出身は分子生物学である。現在も分子生物学解析を進めている。

分子生物学は目に見えないミクロなものを解析するものである。サザンブロット・ウエスタンブロット、リアルタイムPCRなどなど、目には見えない微小なものを可視化しながら分子メカニズムを解明する学問である。

一方、最近では、コハク酸やフィコシアニン生産などを始めとするバイオテクノロジーも進めている。これらは環境に資するものづくりである。

とはいえ、まだまだコハク酸などの有機酸生産量は少ないため、目に見える形まで到達していないのが現状ではあるが。

現在は遺伝子改変や培養条件を変化させることでコハク酸などの有用物質生産を行っている。コハク酸の場合であれば、溶液中のコハク酸濃度を高速液体クロマトグラフィーなどで定量している。

これはあくまで溶液中のコハク酸量であって、実際にコハク酸そのものを精製するところまでは至っていない。

しかし、生産量が増えた場合を想定し、その後のプロセスを開発しておくことも非常に重要である。

コハク酸を精製する方法はいろいろあり、その精製法についても、いろいろな企業がさまざまな方法の特許を出願・取得している。微細藻類の培養法も少し調べれば、錚々たる企業がたくさんの特許を出願・取得していることがわかる。過去の話ではなく、現在進行形である(こういうことからも分かるが、研究室での体験が社会で役に立たないなんていうのはとても信じられないし、信じない方が良い)。

コハク酸の精製法の一つが「再結晶」ある。高校の実験でやった人もいるかもしれない。

再結晶そのものはとても簡単で、コハク酸の飽和溶液を作り、一旦熱することでより溶解させ、その後冷やしていくことで、コハク酸を析出させるのである。

この再結晶で作ったのが写真のコハク酸結晶である。これは微細藻類由来ではなく、購入したコハク酸の粉末で作ったものである。

10%程度のコハク酸溶液を作製し、一旦80〜90℃に熱して溶解させ、その後徐々に冷やしていった。



しかし、、、難しい。

溶液に針金や糸などを垂らしておくのだけれど、全然同じように結晶ができない。出来る時と出来ない時がその時の偶然によるので、計算できない。上の写真は比較的うまくいった例であるが、うまくいかないのも多数あった。

そもそも10%溶液を作ったが、その濃度で適切なのかわからない。もっと過剰にした方が良いのだろうか。

また、一度大きくなってきた結晶をさらに大きくしようとして放置しておくと、反対に溶液に溶解してしまうということもあった。

口でいうのは簡単なのだけれど、やってみるととても難しいことがよくわかった。

「結晶学」という教科書があるくらいで、それは研究分野であるらしい。なんで結晶が出来ていくかというのはとても難しくて、かなりの勉強が必要そうだった。経験則でうまく作れる人がいるかもしれない。

結晶作りが上手い人がいたら、ぜひコメント欄にご意見をください!

ということで、こういう新しい結晶作りにもチャレンジしています。工作室っぽいので、工作室シリーズとしてブログで紹介していきます。過去のブログ記事も一部工作室シリーズのラベルに移しました。

※溶液を熱する場合には火事ややけどの危険を伴いますので、必ず安全を確保した上で実験をお願いします。

2018年1月18日木曜日

研究室は何の役に立つのか?その3 説明責任

前回に引き続き、研究室は何の役に立つのか?その3である。

環境バイオテクノロジー研究室では、判断力、コミュニケーション力、努力の3つを身につけてほしいと考えている。

その3では「説明責任」である。これは判断力とコミュニケーション力の2つに関わる内容かもしれない。

自分がやることを無数の選択肢の中から選ばなければならない。これは研究室配属で、これまでの講義や実習といった決まったスケジュールがなくなることによる大きな変化の一つである。

その2の記事では、その選択を感情的にならずに行わなければいけないということだった。

その3は「説明責任」である。

その日の行動を選び実行する。それを繰り返していくうちに2ヶ月、3ヶ月と過ぎ、ゼミなどで自分のやっていることを説明する機会が訪れるだろう。個別にディスカッションをしていれば、もっと頻繁に訪れると思う。

そんな時に聞かれるのが、「なんでそのテーマを選んだの?」、「そのテーマの重要性を教えて?」、「その実験でいいの?」、「次に何しようとしているの?」などの質問である。

これらの質問に対し、返答していかなければならない。

特になんでそのテーマを選んだか?なんて最初はその研究室から与えられたからだろう。しかし、むしろ教員は助けてくれるどころか、なんで?と聞いてくる側になることが多いと思う。

たくさん聞かれて説明を求められるとうんざりして文句の一つも言いたくなってしまう。しかし、やはり自分の行動に対する説明が必要である。

なぜならば、きちんと説明できない場合は、テーマそのものがいまいちであったり、テーマがよくても中身を理解していなくて効果的でない実験を繰り返していることが多いからである。

行動の選択肢が無数にあるが、その選択を適当にしてしまうと、失敗が多くなってしまう。どんなに頑張っても選択そのものが間違えているので、良い成果が上がらないことが多い。

しかし、「じゃあ、選択肢の中で正解は何か?」と聞かれても誰にも答えは分からない(教員がわかっていると思ったら大間違いである)。分からない中でどうやって正解と思われるものを選ぶかといえば、「◯◯だからこれをやります」と理由をつけられる選択肢を選ぶ、すなわち説明できる選択肢をを選ぶのが良いと思っている。

自分で選んだ後に、さらに他人に説明する。それで他人もすぐに納得するような選択であれば、より正解である確率が高いと言える。選択肢が無数にあり、正解が分からない世界に飛び込むからこそ、説明責任が大事なのである。

このように、自分で理由をつけられてさらに他人に説明できるか?と想像して、日々の行動を選んでいく判断力が大事である。また、他人に説明するにはコミュニケーション力も必要である。いろいろな力が必要なのであるが、研究室で説明責任を果たすことによって、自由度が高く、正解のない世界でうまく生きていけるようになるのである。



研究の世界でも「やりたいからやってるんだ!」みたいに説明責任を果たさない研究者も結構多い。天才的な人でそういう人もいるけれど、考えが甘いだけで逃げていたりするケースも多い(本当に天才的だったり、みんなに反対されても、後に大当たりしたりすることもあるので、判断が難しい)。経験上、考えが甘い場合には「やりたいからやっている」という割には本人はあまり楽しそうに見えず、少し経つとテーマを変えてしまったりする。要するに面白い理由が説明できない=実はあまりなかった、という図式である。

社会人でもこういう人はたくさんいるので、ぜひ学生には研究室で「説明責任」を果たせるようになってほしいと考えている。説明責任を果たすことで、判断力とコミュニケーション力が向上し、成果が挙がっていくと考えている。

その4に続く。

2018年1月17日水曜日

特研ガイダンスとは?

明治大学農学部農芸化学科2年生恒例の「特研ガイダンス」が終了した

明治大学農学部では3年生から研究室に配属になる。特研ガイダンスとは何かと言えば、ようするに新3年生(現2年生)に向けた研究室紹介である。

特研ガイダンスは2日間に渡って行われる。一学年が150人前後なので大教室が使われる。1号館か2号館を使うことが多い。今年は1号館の教室で行われる。階段型の教室で見やすくて良いのだけれど、冬場は下の方がとてつもなく寒いという難点がある💦。「なるべく前の方に座ってください。」と言いたいところなのだけれど、教室の前後(下と上)で温度がかなり違うので・・・。

それはさておき、新3年生が全員集まり、教員が交代で研究室を紹介していく。教員の待ち時間はおよそ15分間。詳しい研究内容を話す時間はないので、簡単な研究紹介や研究室の雰囲気や理念、所属学生の現状や進路などの話になる。

特研ガイダンスの特徴の一つは、教員の発表スケジュールが明かされていないことである(明かされていないはず。。。)。なぜかというと、自分の興味のある研究室の紹介だけ聞いて帰るのを防ぐためである。

全員が希望の研究室に配属されるわけではない。また、最初は志望していなかった研究室でも話を聞いたらこちらがいいかもしれないと、心変わりするのが毎年の特研ガイダンスの様子である。

実際に入ってみないと本当に合うか合わないかはわからないけれど、大事な自分の進路なので、すべてを聞いてから判断して欲しいと思う。

研究室の配属決定は、3月の初めに行われる。農芸化学科では研究室の定員は全研究室で等しくなっている。定員を越えた場合は成績順になる。非常にシビアなシステムだけれど、平等といえば平等である。

農芸化学科では、「学生が教員を選ぶ」。教員に学生を選ぶ権利はない。先生立場弱いなあと思うが、正直学生を選べと言われても困るので、このシステムは素晴らしいと思う。選ばれる方なので、プレッシャーなのだけれど。。

初めて参加した特研ガイダンスは今でも忘れないなあ・・・実質的な明治大学への初出勤日で、しかもその日に研究室の第1期生が決まったので。学会とかあまり緊張しない人間なのだけれど、あれはさすがに緊張した。学生も自分の2年間(修士も考えると4年間)を、初めてみる15分間のプレゼンで決めなければいけないので、とても緊張していたと思う。すごい緊張感だったことを今でも昨日のことのように思う。

昨日は新任のS先生も2年生の前に初登場してお話をされた。150人の大教室を前に「緊張する」とおっしゃっていたのだけど、とてもお話が面白かった!植物ホルモンという少し難しい分野だけれど、とてもわかりやすくご説明いただいた。アメリカの話なんかも少しでて、とても興味深く、学生の食いつきもとても良かったように思える。

来年度よりまた新しい先生が来られて、また雰囲気の変わる農芸化学科になりそうである(3号館の若手教員比率がまた上がる)。

研究室の配属決定日は3月2日に決定。さて環境バイオテクノロジーにはどんなメンバーが配属になるでしょうか。どきどき。とても楽しみにしています。。

2018年1月16日火曜日

研究室は何の役に立つのか?その2 感情的にならずに判断できるか?

研究室は何の役に立つのか?その2である。

当環境バイオテクノロジー研究室では、判断力、コミュニケーション力、努力を大事にしている。前回に引き続き、判断力の話。

前回は、「自由すぎる選択肢の中から今の行動を選ぶ判断力」が大事であるという話をした。

今日も判断力の話で、他にもコミュニケーション能力の話をしようと思っているが、こういう話をすると「うちの職種ではあてはまらない」、「こちらの場合は◯◯の能力の方が大事である」という反論を言ってくることがある。

前回のブログ記事でも書いたけれど、「必ずしも当てはまるとは限らない」と書いているのにである(ちなみに別に反論を言われたわけではありません💦前の記事と今回の記事は配信日が異なるだけで、同じ日に書いているので。。)。
「他の職種では違う能力が必要である」、「こんな意見もある」というのであれば大歓迎なのであるが、反対すること、ケチをつけることが主な目的な人もいる。

例えば私は大学教員だが、アカデミックの人間を毛嫌いしている人や、研究室に嫌な思い出があって研究室というものが大嫌いな人も少なからずいることを知っている。また、大学教員間でもライバル心を持っている人もいることだろう。

そうすると、何を言っても悪い部分を探して反論しようとするのである。
これこそまさに「判断力が感情で狂っている状況」である。

正直言えば、このようなブログを自分が大学生の時に読んで、大学教員からこんな偉そうなこと言われたら、「はい、そうですね。」なんて素直に聞かないと思う。

学生時代からずっと見てきたが、必死になってライバルの評価を貶めようとする人がいる(誰しも経験することだろう)。会社に入っても、残念ながらそういう人はいると思った方が間違いない。研究者の世界も同様で、必ずしも全員が研究を進めようという方向には向いていない。

反対に、どうしても自分がやっている研究は素晴らしいと言ってしまいたくなるだろう。「◯◯最高!」と自分のテーマを声高に叫んでいる人を見かけるのではないかと思う。もちろん、それは素晴らしいことであるけれど、それと同時に自分が一番の批判者でなければならないと思っている。自分の研究が最高と思いたいのだけれど、ある時はその感情を封印して自分の研究を見つめ直すことも必要である。自分のやっていることに対して、感情的にならずに判断できるかの能力が問われるだろう。

他人の仕事についても同様であり、負けたくない気持ちからアラを探してしまうのは仕方がないのかもしれない。しかし、そういう傾向が強い人は、やはり自分の研究の判断も甘くなっていると思うし、いろいろな面で損をしていると思う。

このように、どうしても自分に甘く、他人に厳しくなってしまう感情をコントロールしながら、物事を判断する能力を身につけられるかが非常に重要であり、研究室で訓練できる事であると考えている(反対に、自分に厳しすぎるのも要注意である。自分に厳しすぎる人は優秀な人に多いので、こちらも同じく感情を是正した方が良いと思う)。

研究室に所属しているととても狭い世界で競争もありどうしても感覚が狂ってしまうことがある。しかし、感情的にならない判断力を身につけることはあらゆる場面で役立つと思う。結構偉い人でも感情的な判断で行動を間違えて損しているケースを見かけるので、感情的にならない判断力を身につけるだけでも非常に強い武器になると思っている。

その3に続く。

2018年1月14日日曜日

研究室は何の役に立つのか?その1 無数の選択肢から今の行動を選ぶ

明治大学も他の理系大学と同様に卒業研究を行う。ただし、農学部の場合は3年生から研究室に配属される。一般的な大学だと4年生からが研究室に配属されて卒業研究がスタートすると思う。

うちの研究室では、微細藻類の環境に関連する技術開発を行っている。また、もともと私が分子生物学の出身であるため、光合成生物の転写や代謝、光合成のメカニズムの基礎研究も行っている。その他にも食用色素や培養法の開発なども進めている。

最近では微細藻類もすっかりメジャーとなり、大手企業でも研究開発を行っている例がある。なかなかうまくいく例は少ないが、例えば株式会社DICがスピルリナを供給していることは有名であるし、東大発ベンチャーである株式会社ユーグレナはすでに東証一部に上場している。微細藻類を取り巻く環境は昔とはかなり異なっており、驚きである。

そうはいっても、卒業して微細藻類を直接扱う人は少ないと思う。これはうちの研究室に限らない。自分が卒業研究でやっていた内容を会社に就職しても続けている人はごくわずかではないかと思う。

それでは研究室は何の役に立つのだろうか?

何回かに渡ってこの疑問に対する私見を書いていこうと思う。

ただし、はじめに書くべきことは、就職してからの進路は様々なので、すべての人には当てはらないだろうということである。また、私自身も別にいろんな職業を経験したわけではないので、「うちの職業にはあてはらない!」と言われても「そうですか」としか言えないと思う。

そのような前提のもと、個人的な経験から研究室がどう役立つかについて書いていきたいと思う。


当研究室(環境バイオテクノロジー研究室)では3つの能力を鍛えることを標榜している。

それは何かというと、判断力、コミュニケーション力、努力

である。これらはアカデミックの研究者以外でも大事だと思うので、これらの能力を鍛えることにしている。

判断力は卒業研究に入ってまず必要になる能力であると思う。

研究室見学の時に学生はいろいろな人から言われることだと思うけれど、研究室に配属になると行動の自由度、選択肢が増える。今日の講義はAで、明日は実習Bで、来週はテストで・・・と、それまでは大学のカリキュラムで日程が組まれていたものが、研究室配属になると自由になる。

自由になったらなったでこれが結構大変である。すべての予定を自分で組み立てなければならない。研究だけでも今日は試薬を作るのか、実験Aを行うのか、実験Bを行うのか、それとも機器の使い方を調べるかなど、無数の選択肢がある。

それに加えて、授業だったり、大学院進学の勉強、資格取得、就職活動・インターンなどなど行動の選択肢がこちらも無数にある。これらの中から今やることを選んでいくのである。もちろん、その選択によって、効果的な日もあれば、徒労に終わってしまう日もある。

この自由過ぎる自由に晒されるのが研究室ではないかと思う。この自由な時間・空間に放り投げられた時に、判断力を磨いていくことになる。

よって、上に決められたことを毎日行う研究室では、この判断力の訓練ができないのではないかと思う(ただし、研究室のポリシーがあるので、まずは一通りの練習が必要なところもある。まずはその研究室の方針に従って欲しい)。


この判断力はスポーツでも有名で、サッカー選手なんかが「テクニックやスピードがなくても判断力で代表選手になった」なんて話も聞いたことがある(あまり詳しくないけれど)。おそらくいろいろな分野に応用できるのではないかと思っている。

その2に続く。

2018年1月13日土曜日

シアノバクテリアのグリコーゲン定量

グリコーゲンの量を調べることは、代謝工学において非常に重要である。

グリコーゲンはシアノバクテリアをはじめとする細菌や、動物における炭素の貯蔵源である。どんなに酵素の活性を増強させても、原料となる炭素がなければ目的物質を増やすことはできない。グリコーゲンなどの炭素の貯蔵源の量を調べることで、目的物質があとどれくらい増えることができるかというポテンシャルを調べることができる。ただし、炭素の貯蔵源はグリコーゲンだけではないので、注意が必要である。

グリコーゲンの定量では、主にグリコーゲンを酸で加水分解した後、単量体となったグルコースを測定している。あくまで「グルコースのほとんどがグリコーゲン由来である」という仮定のもとの値である。

ここでは単細胞性シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803におけるグリコーゲン定量法を示しているが、細胞が壊れにくい・不純物のコンタミが多いなどの要因がない限り、幅広く使える方法であると思う。

溶液・試薬
10%硫酸水溶液(濃硫酸を薄めるのでも構わないが、取り扱いに注意が必要である)。
LabAssay Glucose
※他のグルコース定量キットでも問題ないと思う。昔はo-トルイジンを用いた比色法を用いていたが、o-トルイジンは毒物であるし、値の安定性があまりよくない印象だったので、酵素法を利用した定量キットの方が良いと思う。

器具
ヒートブロック
分光光度計

等量のシアノバクテリア細胞を回収する。当研究室では、OD730 = 1.0 の細胞を30 mL分(すなわち、培養してOD730 = 3.0であったら、10 mL分の培養液を回収するということ)。
遠心 15,000 rpm (20,800 g) x 1 min 
上清をマイクロピペットで捨てる。
細胞を等量の3.5%硫酸に懸濁する(300~500 μL)。
100℃で40分間インキュベートする。

遠心 15,000 rpm (20,800 g) x 1 min 
上清を新しいマイクロチューブに移す。
上清に含まれるグルコースを定量する。定量キットは使いやすいもので良いと思うが、当研究室ではLabAssay Glucose (Wako, Osaka, Japan)を用いている。

上清6.7 μLに発色試薬 1 mLを加える(グリコーゲン量によって上清の量を変える)。

37℃で5分間インキュベート

OD505を測定する。既知濃度のグルコースを同時に測定し、検量線を作成して、グルコース換算のグリコーゲン量を算出する。

2018年1月12日金曜日

サボテンでちょっと休憩

ブログで「論文の書き方」という堅い話題が続いたので、研究室にあるサボテンでも見てちょっと休憩。

このサボテンは、一期生であり、卒業生であるTさんが研究室に置いていったものである。眉を寄せた猫が、シュールで可愛い。

もう2年以上前になると思うけれど、まだまだ元気に生長している。そして、普段は研究室の風景になってしまって気がつかないのだけれど、気がつくといつのまにか不思議な分枝をしている。図のように、いろいろな方向に伸びている。

「水をください。」と書いてあるけれど、ほとんど水しかあげていないと思う。ということは、土にある栄養分と、もともと蓄えていた栄養分で生長しているはずである。もちろん、光合成で炭酸固定をするので、炭素源は大気中の二酸化炭素だと思うけれど。

こんな形をしているサボテンの光合成ってどうなるんだろうと検索してみたら、日本植物生理学会の質問コーナーに同様の質問と回答があった。
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=0984&target=number&key=0984

なんとサボテンは茎で光合成をしているらしい。そもそも、この丸く見えている部分が「茎」であるらしい。そうなんだ、そう言われると考えたことなかったけれど、あのサボテン特有の形の部分は茎なのか。そして、茎が主に光合成の場とは面白い。

さらに気孔(二酸化炭素を含む空気のやりとりをする穴)も茎にあるとのことである。光合成をする場所に必要なのだから当然かもしれない。しかし、気孔が茎にあるって初めて聞いた。

さらに、もともと乾燥した熱帯地域のものなので、昼は乾燥を防ぐために、昼間は気孔を閉じて、取るに気孔を開けて二酸化炭素を貯めておくというのも面白い。そうすると、サボテンのサーカディアンリズムは特徴的な制御メカニズムがあると思うのだけれど、どのくらい研究は進んでいるのだろうか。分子生物学的な研究は難しいと思うけれど。

伊豆シャボテン公園のQ&Aも面白い。
http://izushaboten.com/saboten/faq.html
季節によって、水のあげ方や光の当て方が違うらしい。
春と秋には水をあげ、夏と冬は乾いたら少量あげるくらいでいいとのことである。特に日本で育てようとすると、水のあげ過ぎで枯れることが多いらしい。

また、夏から秋にかけては遮光(光を当てないこと)でいいとのことである。そうなんだ・・・植物なのにそんなに遮光で良いとは。光合成は良いのだろうか笑。

そして、サボテンを増やすにはサボテンを挿し木するらしい。サボテンの挿し木とは何かと言うと、上の写真のぽこっと生えてきた部分を根元からカッターで切り、日陰で2〜3週間乾燥したあと、新しい土に植えるとのことである。小さなサボテンがぽこっと生えることを「仔吹き」というらしい。知らないことばかりだ・・・

ということで、環境バイオテクノロジー研究室ですくすくと育っているサボテン。僕もたまに水をあげていたのだけれど、過剰だったかもしれない💦。

休憩と言いつつ、光合成や植物栽培の話として、一般向けから学術向けまでとても面白そうである。微細藻類だけでなく、サボテン研究でも始めようかな。。

2018年1月11日木曜日

【重要】原著論文の書き方 〜簡易版〜

原著論文の書き方が5つの記事になってしまった。これだと情報にアクセスしにくいかもしれない。情報へのアクセスがキーワードのこのブログ。こういう時には、簡易版が必須だと思う。5つの「原著論文の書き方」をまとめたのが今回の記事。

1. Abstract(要旨)
2. Introduction(序論)
3. Materials and Methods(材料と方法)
4. Results(結果)
5. Discussion(議論・考察)
6. Reference(参考文献)
7. Figure Legends(図の説明文)

これにFigure(図)とTable(表)があるバイオの実験系の論文を想定。

論文作成手順1. ファイルの共有方法・更新方法を決定する

ファイルをクラウドなどで共有し、ファイル名の命名規則(日付、名前をファイル名につけるなど)を作る。本文(Manuscript)はWordなどで作る。

論文作成手順2. 結果のFigureのファイルをPowerpointで作る。
実験データを並べて、FigureファイルをPowerpointなどで作る。どのように並べたら話が通るかを考えて、図の順番を入れ替える。

論文作成手順3. Introductionを作成するために、論文を集めて要約する。
論文をたくさん読み、各論文を1、2文の英文に要約する(文章を抜き出すのではない)。10〜20本の論文についてこれを行う(もっと多くても良い。10本だとさすがに少ないかも。。)。その後、順番を入れ替えて話が通るようにする。

論文作成手順4. Materials and Methodsを作成する。
記述はシンプルに。しかし、省略してはいけない。溶液量、試薬メーカー、反応時間・温度、遠心分離の速度などをすべて記載する。日本語フォントを混ぜてはいけない。

論文作成手順5. Resultsを作成する。
文章間のつながりだけ気をつけて、結果をシンプルに記述。
基本は、結果の解釈を書かない

論文作成手順6. Discussion(議論、考察)を作成する。
ディスカッションは、まず結果の解釈を記述する。その後、イントロダクションと同様に、結果に関連する論文を読み、それらを要約して載せていく。結果の繰り返しや他人のディスカッションの流れをそのまま使うことをしてはいけない。

論文作成手順7. Figure Legendsを作成する。

図の説明として、平均値、標準偏差・標準誤差、試行回数(n数)、検定方法と有意差の有無などを記述する。


論文作成手順8. Tablesを作成する。

Wordの表作成機能で作成する。Powerpointなどの図として作らない。タイトルは表の上、Legendは表の下に記述する。


後は要旨や謝辞、タイトルページ、カバーレターを作成するれば完成である。

その他の注意点としては、
1. 誤字、脱字は自分でチェックする。誰かが直してくれると思わない。
2. 科学の論文では、「書いていないことを察してもらうこと」はできない。省略のしすぎに注意。
3. 「このパラグラフは◯◯のことを書いている」とすぐに言えるくらいシンプルな構成になっているかをチェック。
4. 論文のタイトルはとても大事なので、最後の最後まで考える。
という感じだろうか。論文の書き方なんて偉そうだし、それぞれ自分のスタイルがあると思うので、慣れてきたら崩して構わない。参考になれば幸いです。

2018年1月10日水曜日

【重要】原著論文の書き方 〜No.5〜

原著論文の書き方 〜No.5〜である。ここまでの記事でDiscussionまで作った。終わりと言いたいところだけど、まだ残っている。

論文作成手順7. Figure Legendsを作成する。
論文の構成は


1. Abstract(要旨)

2. Introduction(序論)
3. Materials and Methods(材料と方法)
4. Results(結果)
5. Discussion(議論・考察)
6. Reference(参考文献)
7. Figure Legends(図の説明文)

であり、Referenceは随時作っていった。最後に図の説明文(Figure legends)を書く。

Figure legendsは、1つのFigureに対して1つのパラグラフで説明を書く。

図の説明であって、方法を書くわけではない。図の説明とは、例えば、棒グラフがあっても何回の実験なのかわからない。また、数値が平均であるかもわからないし、エラーバーがついても標準偏差なのか標準誤差なのかもわからない。また、相対値で表した時も、何を基準にして、その基準を100にしたのか、1にしたのかも記載しないとわからない。

「数値が平均である」、「野生株を100とした相対値で表した」などは当たり前すぎて記載を忘れてしまいがちなのだけれど、相手に読み取ってもらう・察してもらうことを期待してはいけないのが科学論文である。上記を全て記載していく。

また、検定をして有意差の印である*やP-valueなんかもここに記載する。10年前ならいざ知らず、今時「エラーバーがかぶっていないから有意差があります」なんていうのは通じないので、検定を行うことが必須である。

ちなみにレポートでも、例えば試料の試験管が5本並んでいたとしたら、Figure Legendsとして、図の下に「左からNo.1~5とした」と書くのが正式なやり方である。図の中に番号が書いてあるから、Legendsに書かなくていいわけではない。



論文作成手順8. Tablesを作成する。
8番目にしたが、Table(表)は最初または途中で作成しているかもしれない。

Tableは、Manuscriptファイルの最後のページか独立したファイルとして作成する。これは投稿するジャーナルによるので、各ジャーナルのガイドラインを参照してほしい(正直、統一するか、どちらでも良いなどにしてほしい・・)

注意点は、Powerpointなどで図にしないことである。

最近は、Wordの表機能を使って書きなさいという指定があることが多いので、この機能を使って作成する。

Tableの場合は、表の上にタイトル、表の下にLegendsを書くことが多い。


残るは要旨の作成や謝辞(Acknowledgement)、カバーレターの作成などもあるけれど、とりあえずここまで。

5回に渡ってしまったが、原著論文の書き方としては以上である。参考にしていただければ幸いである。

2018年1月9日火曜日

【重要】原著論文の書き方 〜No.4〜

原著論文の書き方 〜No.4〜である。ここまででイントロダクション(序論, Introduction)、材料と方法(Materials and Methods)、結果(Results)までを作っていった。次はディスカッション(議論・考察, Discussion)である。

論文作成手順6. ディスカッション(議論、考察)を作成する。

結果(Results)の後がディスカッション(議論・考察)である。解釈と言ってもいいかもしれない。

前の記事で、結果と議論・考察を分ける重要性を述べた。

遺伝子Aの欠損株で遺伝子Bの発現が減少した(Results)
遺伝子Aは、遺伝子Bの正の制御因子である(Discussion)

と、きっちり結果と分けて書くのがディスカッションの基本である。ということで、ある程度は素直に結果を考察・解釈していけば書ける。

しかし、ここからが難しいところで、著者の実力差がはっきりと出るところである。

上の例で言えば

1. 遺伝子Aの機能は他に知られているのか?
2. 遺伝子Bの制御因子は他に見つかっているのか?
3. 遺伝子Aの制御は直接的なのか、間接的なのか?その理由は?
4. 遺伝子Aに類似した遺伝子群の機能はどのくらい知られているのか?
5. 遺伝子Bに類似した遺伝子群の制御因子はどのくらい知られているのか?
6. 遺伝子Aが遺伝子Bを制御する意義は?
7. 遺伝子Bを制御するのは遺伝子Aだけか、他にもあるか?

など、思いつくだけでもこれだけたくさん書くことがある。

そして、これらはどんなに悩んでも、様々な論文を探してきて、読まなければ書くことはできない。イントロダクションと同様に、ディスカッションでもたくさんの論文を読むことを要求される。

論文をあまり読んでいない著者が論文を書くと
1. 類似の論文と似た構成のディスカッションになる
2. 結果をもう一度繰り返す
ことになる。すぐにばれる。実力差が出るのがディスカッションでもある。

また、読み手にいかにわかりやすい構成にするか?ということも大事である。論文を書くのは非常に大変なので、つい読み手がいることを忘れてしまう。論文を書く以上、相手が読んでわかりやすいことが重要であることは言うまでもない。しかし、論文執筆の大変さによって忘れてしまうことが多い。

ディスカッションがわかりにくそうだなと感じたら、図表を作って読み手の理解を助けるのも一つのである。複雑な代謝の話をしているのに代謝マップがなければわかるはずがない。いろいろな生物を比較しているのに、比較表がなければ頭には入ってこない。相手が理解できるようなわかりやすい構成にするのがディスカッションの基本である。



これで一通りの論文はできたと言えるが、まだやるべきことはまだ残っている。

No.5に続く。

2018年1月8日月曜日

【重要】原著論文の書き方 〜No.3〜

原著論文の書き方 〜No.3〜である。ここまででFigureファイルを作りながら、イントロダクション(序論)までを作っていった。

論文作成手順4. Materials and Methodsを作成する。
はっきりいって、この手順はあまり考えることはない。やったことを淡々と記述していく。

ただし、注意点がいくつかあり、一言で言うと「記述するのが面倒だからといって、省略してはいけない」である。

「溶液Aと酵素Bを混ぜて反応させ、遠心をして上清を新しいプラスチックチューブに移して、次に蒸発させて・・・」

は誤りである。

「X μLの溶液AとX μLの酵素B(メーカー名、都市、国)を混ぜて何度で何分間反応させ、遠心(X min, X,000 x g)をしてX μL分の上清を新しいプラスチックチューブに移して、次にX μL分を蒸発させて・・・」

などと書かなければいけない。すなわち、読んだ人が再現できるように書くのである。

さすがにマイクロピペットを使ってとかは書かない。また、エタノール沈殿くらいならば「Ethanol precipitationを行った」くらいだけれど、それ以外は基本的には記載しなければならない。

また、論文に日本語フォントは混ぜてはいけない。(この記事では、ブログアプリの関係上、”マイクロ”が日本語変換になっている)

ほとんどの論文がTimes New Roman(or Times)になっているので、このフォントのまま、Wordの「挿入」→「記号」→「記号と特殊文字」で特殊な文字や単位を挿入する。それでも記号がない場合は、Symbolのフォントを使う。

単位の前に半角スペースを開けるのも忘れてはいけない。この辺は、レポートをしっかり書いている人は1、2年生の間に学んでいるはずである。また、日本語のスペースが入っている場合も多い。


論文作成手順5. Resultsを作成する。
これもあまり考えるところではない。Materials & MethodsとResultsが論文の中ではもっとも簡単に記述出来るところ言って良い。

Resultsでは、文章間のつながりだけ少し気をつけて、あとは結果をシンプルに記載するのみである。

注意点は、「解釈を書いてはいけない」ことである。

例えば、「遺伝子Aの欠損株で遺伝子Bの発現量が半分に低下したので、遺伝子Aは遺伝子Bの正の制御因子である。」

と書くのは誤りである。

正確には、遺伝子Aの欠損株で遺伝子Bの発現量が半分に低下した」が結果であるので、Resultsにはそれだけを書いて、Discussionで「遺伝子Aは遺伝子Bの正の制御因子である。」と記述しなければならない。後ろの文は、あくまで得られた結果を元にした解釈だからである。

論文を読んでいてもこれを混ぜって書いている場合もある。Results & Discussionという形も多いので、ついそのように書いてしまうのだけれど、まずは基本形を覚えた上で崩して欲しい。

結果と解釈をきっちりと分けておくことは、極めて重要である。論文を学ぶ非常に重要なポイントであると言っても良い。

学生との就活話で、こんな話をした記憶がある。

例えであるが、チョコレートを作るA社に就職が内定している学生がいるとする。悩みはA社のチョコレートが関西に比べて関東で売り上げが低いことである。

関東でのチョコレートの売り上げを比較すると、B社の関東でのチョコレートの売り上げがA社よりも多い。そこで「B社のチョコレートのせいで、関東ではA社のチョコレートのがあまり売れない」と考える。

こういう話をよくするのだが、これは結果(Results)と解釈(Discussion)が混じってしまっている例である。

結果と解釈を分けると、結果は
関東でのB社のチョコレートの売り上げ>関東でのA社のチョコレートの売り上げ
である。

しかし、だからと言って「B社のせいでA社のチョコレートの売り上げが低い」とは限らない。関東ではチョコレート全体の売り上げが低く、ラムネがめちゃめちゃ人気があるため、ラムネの方が競合相手かもしれない(あくまでたとえである)。また、A社とB社のチョコレートは味のカテゴリーが違うので、実は競合してないかもしれない。

これは仮定の話で、実際には”自然に出てきた”解釈が合っていることも多いのであるが、解釈を間違えた場合には、たとえ頑張ってB社と張り合ってもA社にとっては無駄な努力となる。

このように、ResultsとDiscussionを分けることには汎用性があり、アカデミックの世界のためだけのものではない。これをぜひ論文で勉強して欲しいと思っている。

No.4に続く。