大学の先生というと本に囲まれた研究室にいて、自分の興味のある研究の文献を読んで、実験系なので実験をして論文にまとめる、なんていうイメージがあるのかもしれない。
残念ながらそんな優雅なことはできない。
特に実験系の生物学では試薬やプラスチックチューブ、抗体、培養関連製品などの消耗品から分析機器などが必要である。それ以外でも、ものが壊れたら修理が必要だし、論文を出すにもお金がかかるし、印刷に使うトナーなども支払う必要がある。
常に予算のことを考えて、伝票と格闘しているのである。
どこの研究室でも問題になるのだけれど、共通の物品を特定の人ばかり発注していたりして、不平等になってしまったりする。それを是正しなければいけないという問題はさておき、きちんと物品を発注している人は、研究室を中心としてビジネスが繰り広げられることを目にしているはずである。注文をしたことがなければ製品番号とLot番号の区別もつかないはずである。
物品の発注の仕方も最初はわからないので、注文には何が必要かがわからない。また、類似の機能を持つ製品は以外とたくさんあり、比べてみないとどれが適切なのかなかなかわからない。それを選んで発注する。たまに間違えて高いものを発注したり、数量を間違えて叱られるというのは誰しもが経験したことがあるのではないだろうか。
こういうのはビジネスの基本中の基本であり、発注の数量ミスで今月の利益が吹き飛んだなんていうのは当たり前にある話である。
また、代理店もわざわざ安い値段を言わないこともある。相手の言うことを鵜呑みにして、チェックせずに買ってはいけないというのも基本であり、これも研究室で学ぶことになる。
製品が届いて支払いを行うには、見積書・納品書・請求書という3点セットが必要である。これらを見たことがないのであれば、研究室で学べることを損してしまっているのかもしれない。
学会なんかにいって、旅費の手続きをするのも良い勉強だろう。最初に手続きをしようと思うと、領収書やチケットの控えを捨ててしまったり、出力を忘れてしまって、再発行に駆けずり回るというのも多くの人が経験していることだと思う。終わった後は出張報告書が必要だし、最近だと現地到着の証拠書類なんてものも必要だったりする。移動した時にどういう書類が必要で、お金がどのように廻っているのかについて勉強する機会になると思う。
さらにうちの研究室では企業と連携しているので、学生と言えども対等な関係で研究の話をすることになる。研究の中身が中心であるのだが、契約が必要になるのでそういうのも垣間見ることになる。「一緒にやりましょう」、「はい、やりましょう」では共同研究は成り立たないのである。
人によっては特許についても勉強することになるだろう。特許出願を行った学生も出てきており、その特殊な世界には驚いていた。知的財産権は、日本のような資源のない国にとっては非常に重要だし、修士を取って研究職を目指す人にとっても必要不可欠である。
最後に付け加えると、こういう交渉を教員はしていて、たまに学生には見せない怖い顔をしていることがある。こういう姿を見るのも勉強の一つであると思う。
このように、研究室と言えど、社会の中で動いている一組織であり、ビジネスとは切っても切り離せない。研究室でビジネスに関与していないという人は、単に自分がやらなかったか気づかなかっただけである。直接的ではなくても、優秀な学生は気づいて色々と学んでいる。
正直言うと、最初に出てきた優雅な研究者をやっていたいのであるが、そんなことは不可能であるので、いやでもビジネス的な側面を見ることになるだろうと思う。ビジネスの視点で研究室を見てもらうと、新しい一面が見えるのではないかと思っている。
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