2018年2月28日水曜日

研究室ライフスタイル

研究室配属で気になることの1つが、ライフスタイルの変化である。夜遅くや休日にも研究をしなければいけないのか?アルバイトができるのか?など、いろいろな疑問があると思う。

研究室での各人のライフスタイルは、まず、研究室の方針で全く異なったものになると思う。研究室によってはコアタイムが決まっているところがあると思うので、配属前にコアタイムがあるかどうかを聞くと良いと思う。

また、コアタイムに加え、実際にどのような生活になっているかを調べた方がよい。これは研究室の先輩等に聞くしかないと思う。

環境バイオテクノロジー研究室では、コアタイムはない。それで、実際にどのような生活をしているかというと、学生が研究をしている時間はバラバラである・・・あまり推奨をしていないのだけれど、夜や土日にも人はいるらしい。個人差が激しいと思うので、うちの研究室については一言で言うのが難しい。

ただし、事前に言ってあることは、「働いた時間は全く評価に入らない」ことである。当たり前と言えば当たり前なのだけれど、日本の場合、残業すると偉い、徹夜すると偉いという価値観は未だに残っている。

うちの研究室では一切評価しないと伝えている。

それ以外は、、、、はて、みんなどんな生活をしているのだろう?(笑)

研究室によるけれど、個人のテーマで進めていくのでみんな自分のライフスタイルに合わせて進めていると思う。昼夜逆転などの場合はやんわりと止めると思うけれど、そのような時間配分の権限は、各人に与えられていると考えてくれれば良いと思う。

要するに「大人扱い」しているということである。

研究室にずっといると飽きてしまうし、それだったら優雅にカフェで勉強したり文章を書いたりしている方が効率が上がることもある。図書館の方が集中できる人もいると思う。飲まず食わずで仕事をするよりも、お菓子なんかを食べながらの方が捗るかもしれない。

研究室ではむしろ色々試してもらい、自分にあったライフスタイルを発見するというのも重要だと考えている。

学生の時ではないけれど、自分自身も30歳過ぎに9時過ぎに寝て4時半くらいに起きるライフスタイルを確立してから、公私ともにかなり調子がよくなった。研究室では、研究内容だけでなく、仕事や生活のための時間の使い方やシステムの確立を試すことが大事であると考えている。

研究室での生活は人それぞれだけれど、安全にだけは気をつけて、色々と試してもらいたいと考えている。

2018年2月26日月曜日

【連載】PIのつぶやき No.4 〜タイムカプセル〜

【連載】PIのつぶやき No.4の副題は、タイムカプセルである。

タイムカプセルといえば、例えば小学校の卒業記念に自分の夢や大事なものをみんなで校庭に埋めておき、大人になってから掘り起こすというものだろう。やったことはないのだけれど。。

タイムカプセルとは、未来の自分に向けたメッセージと言ってもいいと思う。

このブログもやや説教じみてしまっているが、同じことを狙っている。自分にではなく、読者、特に学生に対してであるが(とはいえ、自分にも役立つかもしれない)。

このブログでもそうだが、実力と目標のバランスをうまく調整するとか、心と体の健康が大事とか、説明責任だのコミュニケーション能力を鍛えよだのいろいろ言っている。

自分は今大学教員の立場だけれど、じゃあ学生(学部生・大学院生)のころにこれらのことを教員からたくさん言われたらどうかと想像すると、「そんなの知ったこっちゃない!」と大半のことはスルーすると思う。

その時々で、自分でいっぱい考えていることがある。また、健康や安全、判断力やコミュニケーション力、努力が大事など、言ってしまえば当たり前である。だから、大人への反発という面を差し引いても「そりゃそうでしょ!」で、読んだとしてもそれなりに流すと思う。

それだったらなんでメッセージ的なものも書いているのか?と言われれば、それはタイムカプセルを仕込んでおきたいからである。人にたとえてスリーパー(休眠者)と呼んでもいい。漢字にすれば時限作動装置である。

前回の20代前半から半ばで、実力と目標のスキマに悩んでしまうというのも、多くの人が経験することである。自分も非常に苦しんだ。

自分が実際にそのような経験をした時に、例えば前回の記事をふと思い出してもらえればよいのである。思い出すことによって、「ああ、みんな経験するものなんだ。私がおかしいわけではないんだ。」と思って、心身が破綻しないようにしてほしいのである。これがタイムカプセルの意味である。

人間の思考というのは、どうしても自分に都合のよいことに向いてしまう。また、自分という特別な存在は、根拠もなく幸せになると思ってしまう。悪いことではないが。

ところが現実はそんなに甘くなく、根拠のない楽観的思考・願望を叶えてくれるほど甘くない。むしろ、思い通りにならないことの方が多い。このような状況の時に、「いかに壊れないか」が大事であると思っている。

はじめて原著論文を投稿する時なんかにもこの傾向は顕著であり、私としてはタイムカプセルを渡しておく。何かと言えば、「すぐにアクセプト(論文採択)なんてありえない。ほとんどリジェクト(不受理)で、すごくよくてリバイス(採択のために追加実験を要求されること)。」と必ず言う。現実的にそうであるので。

しかし、そうは言っても、心のどこかで「自分の論文はすぐにアクセプトされて、世界から賞賛されるのではないか!?」という願望を持っている。そして、すぐに採択されない現実に遭遇すると、心身のバランスを崩すのである。過去の自分が完全にそうだった。

ということで、プロトコールのようなものは別にして、このブログでの説教じみた助言は、将来必要な時にタイムカプセルのように作動して、心身の健康を保つのに一役買えば十分であると思っている。

こんなことを考えながら、大学教員の立場でブログを執筆している。

2018年2月24日土曜日

来週の火曜日は卒論発表会

来週火曜日2/27は、2017年度農芸化学科卒論発表会である。

農芸化学科では、卒論発表は単位ではなく、あくまで自主的なものとなる。今年は4つの分野ごとにわかれての発表会となる。

発表は、一人あたり6分間の発表と2分間の質疑応答となる。人数が多いので短くなってしまうのが残念だけれど、最後の大事な発表である。

今年は昼休みに今年度着任された石丸先生、島田先生の講演会も予定されている。

そして卒論発表会後の懇親会は、農芸化学科の最重要イベントの1つである。卒研生だけでなく研究室のメンバーが集まるので、300〜400人が一堂に会することになる。大規模なイベントである。

卒論発表会は、研究室決定の直前に行われるため、2年生にとっても大事かもしれない。専門的な話で難しいかもしれないが、ぜひ雰囲気は掴んで欲しいと思う。

それにしてもイベントが目白押しの年度末である。。来週末は研究室配属決定の会もあるので。どったんばったん大騒ぎである。。

【連載】PIのつぶやき No.3 〜心と体のスキマを埋められますか?〜

【連載】PIのつぶやき No.3は、心と体のスキマを埋められますか?という副題。どこかの黒いサラリーマンみたいなタイトルである笑。

大学の教員なので、18歳〜20代前半の学生を指導する仕事である。大学院生となれば20代半ばになるし、スタッフはもっと年上である。

10代、20代の頃というのはとにかく悩みが多い年頃ではないかと思う。30代だろうが40代だろうが悩みのない人なんていないのだけれど、特に20代前半から半ばにかけて訪れる心と体のスキマについて話してみたいと思う。

研究室に配属されるのは、本学では大学3年生であり、そうすると20〜22歳くらいとなる。意欲に燃えて「こんな研究で地球を救う!」、「病気を直す薬や食品を作って社会に貢献する!」、「Natureなどの論文を書いて、科学に名を残す!」といった大きな目標を抱えている。とても素晴らしいことである。

ところが実際に配属されると、これまで成績が良かったとしても、実験で自分で計画を組み立てて手を動かすという全く違うことを進めていくことになる(実習では体験しているが、本物の研究となればレベルが異なる)。

そして、実験を進めてもなかなかうまくいかない。ちょっとしたことですべての実験が失敗に終わってしまったり、再現性が出なくて苦しんだりする。驚くほど進まない。そしてこのテーマで良いのか?と悩んだりする。

そうすると、高い目標と大きな自信は崩れ去り、色々と悩んで心身のバランスを崩したりする。

研究室配属の時としたが、新入社員として新社会人になった人もこれを経験することが多いのではないかと思う。自分も研究室配属から大学院までこれをたっぷり味わって、悩んだものである。

20代前半から半ばでは、この心(高い目標や意欲、志)と体(実力、能力、技能)のスキマ(ギャップ)を埋めるのが、極めて大事であると考えている。

若いのだから実力が劣っていても何もおかしいことはないのだけれど、優秀な人ほど目標を限りなく設定してしまう。それは素晴らしいことであるし、そうでなければいけないのだけれど、あまりにも離れすぎてしまうと、心身のバランスを崩してしまうことになる。20代の優秀な人によく見られる現象である。これは特定の業界に限った話ではないだろう。

このようなことが起こる原因の一つとしては、評価基準がいきなり変わることにもある。それまでのレポートや講義の成績は、「大学◯年生」として成績をつけていた。その年齢を勘案して評価しているのである。

しかし、論文投稿などで世界に飛び出せば年齢や職業など全く関係ない。社会人としてビジネスの世界に飛び込んでも同じである。いきなり10年、20年、それ以上経験のある人たちと競い合い、そこで評価を受けなければいけなくなる。

実力が劣るのは全く問題ないのだけれど、これまで高い評価を受けていた人ほど、低い評価に納得がいかない。このスキマ(ギャップ)で苦しむのである。

どうすれば解決するかと言われても正直難しいが、列挙すると

1) 仕事や学業ではなく、心身の健康と安全を第一とする
2) 長期的な目標と短期的な目標をきっちり分けて設定する
3) 勝つことと負けることを両方覚える

なんかが挙げられるかもしれない。

いうまでもなく、継続的に努力をして実力をつけ、成果を挙げていくことが解決策である。ただし、ただ頑張るだけでなく、1)心身の健康と安全がもっとも大事であることを思い出し、2)現実的な目標を設定して小さな「勝ち」を覚え、3)自分の能力や自分の成果を冷静に分析して、すべてにおいて勝たなくても問題ないことを認識すべきであると考えている。

このように、20代前半〜半ばで訪れる苦しい心と体のスキマをどのように埋めていくかについては、誰しもが悩むことであると思っている。

誰しもが悩んで通ってきた道でもあるので、悩んでいる自分が変でおかしいと思わないでほしいというのが一番言いたいことでもある。

そして、誰しもが通る道であるので、先にその準備をしてしまうというのがより良い対策なのではないかと考えている。

環境バイオテクノロジー研究室では、できる限り早く論文を書いて投稿することを推奨している。その理由はなぜかというと、この「スキマ」を経験するからである(当然、心身ともにきつい)。

しかし、人間は慣れる生き物であり、また、対策を考える知恵を持っている。2回目の困難にはより良く前向きに対処できる。

このように、研究の内容とは関係なく、20代で訪れる苦しい時期に向けて訓練をしておき、うまく乗り切ってほしいというのがPIとしての願いでもある。

発酵と代謝研究会に参加

2月20日に発酵と代謝研究会で発表をしてきました。場所は東大の弥生キャンパス。

少し早めについてしまったので、ブログ・インスタネタとして、安田講堂に行って写真を撮ってきました。観光客もいっぱいいるので、写真をとっていてもあまり恥ずかしくはない。。
発酵と代謝研究会は、京都大学小川先生が会長を務めるバイオインダストリー協会の研究会である。
https://www.jba.or.jp/jba/seminar/se_02/29_1.php

バイオインダストリー協会は、私も個人会員になっているが、その名の通り、バイオを用いた産業利用を推進する組織である。

役員名簿を見ればわかる通り、大学と企業、国・地方公共団体などの公的機関などの方々が参加する組織である。
https://www.jba.or.jp/outline/organization_officer/

まず経済産業省の方の特別スピーチから始まる。「最近は、すぐに成功するのかばかり求めれる。失敗をもっと!」という官僚の方のご意見はとても勇気付けられる。こういう意見を持っている方々はたくさんいるのだけれど、現場に着く頃にはいつのまには「すぐに成功を」になってしまう。悩ましいところである・・

企業や他の大学の方々のご講演は、非常にハイレベル。筑波大学の大津先生は大学院生時代からの知り合い。私が大学院生の時に、大津先生は(株)島津製作所に勤めれおられた。その後、現在は筑波大学の准教授として活躍されている。

このように、文字通り産学連携、分野の垣根なく意見交換をする場所である。

企業の方々ともたくさん名刺交換をした。各企業の「上」の方々が多く、非常に貴重なご意見を賜ることができた。凄い方々が参加する研究会というのは、短時間でたくさんの有用な情報を得ることができる。参加する研究会を選択するのも非常に重要である。

懇親会などで、次のシンポジウムやコラボレーションの話などをすることになる。発表はもちろんだけれど、その後の懇親会がとても重要な時間である。

ということで、大学と企業の方々たくさん参加する非常に素晴らしい会でした。だんだんに参加する研究会、しない研究会が分かれてくるのだけれど、この会はぜひ継続的に参加できればと思っている。

2018年2月23日金曜日

学会にどれくらい参加する?

研究室に入る前は、研究室に配属になると「どのくらい学会などに参加するのか?」がわからないと思う。

結論から言うと、「人それぞれで、ほとんど参加しない人もいるし、年に何回も行く人もいる」である。

こちらは出張で行った神戸大学の様子。これは今年の写真であるけれど、1期生は2015年に3人ほど神戸大学で開かれた国際学会iBioK Asia Symposiumというバイオテクノロジーの国際学会に参加した。


確かこの時は2泊くらいしたと思う。神戸市内の三宮駅から歩いて行ける場所のビジネスホテルに宿泊した。学生にとっては初めてビジネスホテルに泊まるという経験になることも多い。

ちなみに小山内研のビジネスホテルの選定基準は「朝食が美味しいところ」である。学生に任せると、結構良いビジネスホテルを探してくれるからびっくりである。自分で探した時は、「ホームページと違いすぎ・・・」と外れることも結構あるので(食べ物の話ではなく、ネット環境や部屋の綺麗さなど)。

2017年度でいうと、遠いところとしては北海道の帯広市に行った。これはユーグレナ研究会への参加で、私も含めて3名だけではあったけれど。ポスター賞も獲得できて、とてもよかった。それ以外は、たまたま学会が関東近郊で開催されることが多かったので、みなあまり遠出はしていない。

夏には、3名ほど熱海で開催された若手の研究会に泊まり込みで行っていた。私は参加していないけれど。これは大学院生とポスドクの話。学部生の場合は明治大学の規約があり、原則教員や上の人ががついて行かなければならない(相談すれば可能だと思うけれど)。

反対に、2016年度は結構遠出をしていて、沖縄で開催された植物学会、富山で開催された生物工学会にそれぞろ6名ずつくらい参加したと思う(開催時期は両方とも9月)。

出張には当然予算も必要であり、これも悩みの種の一つである。出張を大学からの研究費だけでまかなうことはできないので、ほとんど外部資金からになっている。外部資金を使う以上、遊びになってはいけないので注意が必要である。

ということで、参加しない人は年1回もいかないけれど、頻繁に参加する人は、近場の研究会を含めて3、4回だろうと思う。あまり学会に行き過ぎると研究が進まなくなってしまうので、「誰か学会参加しますか?」と聞いても、意外とみんな出張しない。自分自身も余分な出張というのは極力避ける主義である。

2018年2月22日木曜日

ACR11は、シロイヌナズナの窒素同化酵素のアクチベーター

"ACR11 is an Activator of Plastid-Type Glutamine Synthetase GS2 in Arabidopsis thaliana."

Osanai T, Kuwahara A, Otsuki H, Saito K, Yokota Hirai M.

Plant Cell Physiol. 2017, 58:650-657.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28339983

こちらは、初めてのシロイヌナズナの論文である。

まずはじめに。

この論文1本出版するのに、全部で7〜8年間かかった。
もう、本当に・・・

内容はとても単純である。窒素同化でもっとも大事な酵素が何かと言えばグルタミンシンセターゼ(GS)である。この酵素は、グルタミン酸からグルタミンを作る際にアンモニアを取り込む。これによって、細胞内に窒素が供給されるのである。ほとんどの生物で、このグルタミンシンセターゼはもっとも重要な窒素同化酵素である。

シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)は言わずと知れた植物のモデル生物である。シロイヌナズナには、6つのGSがあり、GS1:1~1:5とGS2と名付けられている。GS1~6ではない。GS1:1~GS1:5は細胞質型、GS2は葉緑体型である(正確にはGS2はミトコンドリアにも移行する)。

本研究では、葉緑体型GS2の活性制御機構を調べた。GSは非常に重要な酵素であるため、転写から翻訳、タンパク質の修飾など、様々に制御されていることが、いろいろな生物で知られている。特にタンパク質-タンパク質間相互作用によって活性制御されている例が、幾つかの生物知られているが、GS2では知られていなかった。

本研究では、 共発現遺伝子データベースであるATTED-IIを用いて、GS2と関連のある遺伝子を探索した。その結果、ACR11という遺伝子がトップヒットであった。

ACR11は、ウリジリルトランスフェラーゼという酵素のホモログである。ウリジリルトランスフェラーゼとは何かというと、大腸菌でGSの活性を間接的ではあるが制御する因子であり、窒素のセンサーとして働いている。

ということで、どう考えてもACR11がGS2と関係がありそうだったのである。そこで、GS2とACR11をGSTやHisタグなどの融合タンパク質として精製した。そしてGS2の活性を調べたところ、ACR11によってGS2の活性が増加することがわかった。

また、窒素同化活性の低下のためか、ACR11欠損株は、生育が悪くなった。ACR11遺伝子の相補によって、生育が回復することもわかった。
さらに、ACR11欠損株では、アミノ酸の中で、グルタミンだけが野生株よりも減少していることが明らかになった。グルタミンはGS2の生成物である。

このように、本論文では、ACR11が窒素同化酵素GS2のアクチベーター(活性化因子)であることを明らかにした。すっきりとした結論の論文である。

当然良いジャーナルにと思ったのだが・・・なかなか通してもらえなかった。リバイスの要求がかなりつらく、できないものも多かった。理化学研究所から明治大学へ異動し、シロイヌナズナの実験もできず、また、自分自身で実験ができなくなってしまったことが本当に痛かったのである。このため、出版が2017年になってしまった。主要なデータは、2010~2011年くらいに取れていたのに、である。

いずれにせよ、内容は自信があるが、良いジャーナルにはならなかったという残念さが残ってしまった。異動や他のプロジェクトとの兼ね合いの難しさでなかなか手が回らなかったのである。

ともあれ、初めての高等植物の論文であり、ユーグレナに続いてシネコシスティス一辺倒から脱却できたことは嬉しい限りではある。

2018年2月21日水曜日

【連載】PIのつぶやき No.2 〜目標をどこに設定すべきか?〜

【連載】PIのつぶやき No.2は、「研究室での目標をどこに設定すべきか?」である。

我々は明治大学に所属して研究をしている。すなわち、等研究室で研究をしている人は、いわゆるアカデミックの研究者ということになる。

アカデミックの研究者にとって、もっとも大事なものは「論文」である。これはおそらく異論のないところではないかと思う。

どんなに素晴らしい発見でも論文として発表しなければ、「科学的な発見」として認めてはもらえない。学会発表なんかでもダメではないけれど、やはり公式に認めてはもらえない(ただし、分野による)。

ところが、論文というものはものすごく時間と労力と予算がかかるものである。

特に生物の実験系だとかなり多くが、修士課程の修了時点で論文がなく、その後も論文がでないまま就職する。自分自身も、最初の論文が出たのは博士課程2年生の時である。

さらに現在、明治大学農学部農芸化学科では、修士課程に進学する学生がおよそ3割しかいない。うちの研究室でもだいたいその割合である。

それでも頑張って学部で論文を出してくれて、すばらしいと思う。なので、まずは論文を目標にはしているのだけれど、全員が原著論文を目標にするというのは、20数人をかかえる研究室としては現実的ではないかもしれない。

ちなみに、成果が挙がらないと途端に「論文なんていらない!」と言い出す人がいるのは、20年前からたくさん見てきている。やはり優秀な人はどのような場所で限られた期間であっても、それなりの目標を達成する。必ずしも論文である必要はないが、やはり計画を持って何かの成果を残す努力をした方がよい。成果・結果の出し方を学ぶことができる。

論文以外のの目標として何があるかというと、うちの研究室では「特許出願」も大事にしている。特許は特殊な世界であり、考え方がアカデミックとも一般の営利企業ともまた異なっているので、非常に勉強になると思う。明治大学に着任してから、早くも4件の特許出願を達成した。3年足らずにしては結構なペースだと思う。ただし、特許出願は大学の費用の問題があり、次から次への出願できないところがネックでもある。

他の目標としては、「学会発表」も言うまでもなく
大事である。生物工学会や農芸化学会にいけばわかるが、発表するのは別に大学関係者だけではない。就職しても発表する機会もあるだろうし、そもそも自分の仕事・商品・サービスを人に説明するのは研究だろうが、営業だろうが、事務だろうが変わらない。

また、人的交流を通したコミュニケーション能力の強化にも役立つ。

ただし、上で述べた通り、生物系だと学会発表のみであると少し成果としては弱い。学会発表だけでは、公式に認めてもらえないことの方が多いと言っても過言ではない。できればもう一段階進んだ何かを残して欲しいと考えている。

という時にでは何で残すか、発表するか?であるが、一つの手は和文でもいいので文章にすることである。私自身も和文の雑誌やオンラインジャーナルに寄稿することもある。皆がアクセスできるように文章化することは大事である。

また、迅速に、かつ広く見てもらうために導入したのがSNSでもある。別の記事でも書いたが、論文の遅さと就職までの期間がマッチしない。そのため、SNSなどで発表するという手段である。現時点では、「インスタで発表しました」は認めてはもらえないが、そのうちそういう時代もくるのではないかと思っている。

こちらはインスタで発表したクロロフィルキャンドル。科学的な重要性は・・・ない笑

どのようなビジネス書を読んでも「SNSを育ってておくこと」と書いてある。いうまでもなく、無料の広告メディアである。最近は、某ピザチェーンや某ファーストフードなどの関連のことを呟くと、すぐにリプライ・リツイートされる。「会社の広報」の仕事も変わってきていると言えるだろう。そのような練習にもなると思う。

ただし、この目標設定は変化していくので、常に柔軟に考えていかなければいけないと思っている。

アカデミックの論文のインパクトファクターなんかの話になると、研究者間でも「トップジャーナルに出すべきだ!」「インパクトファクターなんてくだらない。本数だ!」なんて喧嘩していたりする。

私の経験では、
「インパクトファクターが10前後以下の雑誌はカウントしない」、「論文は本数が大事」、「そもそも論文なんていらない(実用化が大事)」
などの意見に接している。

ようするに、評価は多様であり、目標設定も時と場合によって考えていかなければならないのである。

もちろん、大目標である「生命のメカニズムの解明」、「二酸化炭素からのものづくりで環境負荷の低減」などを見失ってはいけないのであるが、短期的な目標は人や状況に応じてうまく設定していかなければいけないと考えている。

2018年2月20日火曜日

【連載】PIのつぶやき No.1 〜研究室にどのくらいいるべきか?〜

明治大学農学部農芸化学科で環境バイオテクノロジー研究室が発足して、もうすぐ丸3年が経とうとしている。

前職は理化学研究所の研究員で、チームに所属していた。さきがけやALCAの予算を獲得していたこともあり、半独立のような形で研究を進めることを許してもらっていた(もちろんチーム所属であったことに変わりはない)。この経験があったため、明治大学で研究室を持つと決まった時に、速やかに研究室を立ち上げることができた。

いろんなことがありつつも、大きな事故もなく、みんな頑張って研究を進めていて、成果もいっぱい挙がっている。とても素晴らしいことである。

しかし、上を目指すことに終わりはない。もっともっと良い研究室にするべきである。また、まだPI(研究室の主催者)になって3年なので、自分自身もどんどん成長して研究室に良いシステムを作って行かなければならない。

ということで、PIの考えていること(頭の中)を書いていこうと思う。タイトルは「PIのつぶやき」にしてみる。

No. 1は、PIは研究室にどのくらいいるべきか?である。

いうまでもなく、月曜日から金曜日まで、そして基本的にはイベント(出張、学会、家庭)がなければ土曜日も顔を出す。でも、何かしら入ることが多いので、平均すると土曜日は2日に1回の出勤になるのかもしれない。

私の勤務時間は、1限の講義や夜の会議がない場合は、9時〜17時 or 17時30分である。

当たり前なのだけれど、この時間の多くは研究室に滞在する。いなくなるのは講義や実習、会議などである。また、学外での業務もたくさんあるので、いないことも多い。

ただし、仕事をしている時間はどれくらいかというと、だいたい朝の4時半に起きて、朝ごはんや身支度をしながらパソコン(PC)で仕事をしている(この時間がもっとも集中できたりする)。

その後、帰宅して夕食を食べた後も、なんだかんだでPCで仕事をしていたりする。最近はスマホでもそれなりに仕事をしていて、研究室でもPCとスマホを同時にぽちぽちいじっていたりする(時代も変わるものである)。

PIになって以来、単発の実験しかできなくなってしまったので、このようにPCやスマホでの仕事というデスクワークがメインになっている(実験できなくなると、結構寂しいものである)。

すなわち、PIの仕事は研究室にいなくても成り立つ割合が高いと言える。

言うまでもなく、直接話をすることが重要である場面はたくさんあるので、基本的に上記のように出勤するのは当然である。

ただ、うちの研究室もそうだけれど、日本の研究室は一般的に狭い。また、私の場合は教員の部屋がないので、同じ部屋に滞在することになる。これはキャラクターによるのだけれど、先生がいても全く気にしない人もいれば、やはり力が入ってしまう人もいる。

「上がいるからいにくい」、「上に意見を言えない」では、どこの会社でもやっていけないので、研究室で慣れて鍛えるべきではあるし、そもそも研究室は遊び場ではないのだけれど、やはりたまには気楽な空間を提供しなければと思っている。

最近は学生がかなり自立的に研究を進めているので、近くの別の場所にでもいて、必要な時に行けるようにするシステムでもいいのかなと思っている(多くても週1回の話である。いや、実際には月1、2回が関の山な気もする)。

昔、某国立大学の教授は、大学の門の前のマンションの一室を借りて、オフィスにしていたらしい。研究室まで歩いて1、2分である。どこもスペース問題で悩んでいるし、先生が適度な距離を保っているので、おそらく研究室のメンバーにはありがたいことだろう(マンションの費用の出処はわからないけれど)。

それと同時に、どんな仕事でも、かつデスクワークならばなおさらだけれど、ずっと集中していることは不可能である。私の勤務時間は上記の通りだが、これを増やして7時に出勤して21時くらいまで働いても、絶対に効率は上がらない。

これは学生にもしばしば伝えているのだけれど、「飽きたら場所を変えた方がよい」と言っている。気合をいれて1日12時間くらい頑張れ!なんて言っても続くはずがない。そういう精神論ではなく、飽きないように、無理なく集中が続くようなスタイルを考え出すのも研究室で学ぶことの一つであると考えている。

ということで、PIのつぶやき連載のNo. 1はPI/先生はどのくらい研究室にいるべきか?ということであった。たまには違う場所で仕事をしようかなと思う今日この頃である。暖かくなってきたら、多摩川のほとりでもよいかもしれない(Wi-Fiないし、一人で土手でPCいじっていたら、なにやってるんだって?感じだけれど笑)

2018年2月19日月曜日

★論文査読あるある★ No.3 〜リバイス1年以上かかりそうなんですけど!?〜

★論文査読あるある★ No.3 〜リバイス1年以上かかりそうなんですけど!?〜にしようと思う。

リバイス(Revise)とは、日本語にすると改訂・改稿である。

論文を書いて、ジャーナルに投稿する。そのまま採択(アクセプト)になることはほとんどない。最終的に採択になった論文でも、最初の判定は基本的にはリバイスであることが多い。リジェクトの場合もある。

論文をレビューアーが審査をして、「この部分が間違っている」、「この実験が足りないのではないか?」と指摘してくる。一般的に2人、3人がレビューアーになり、論文の足りない点、間違っている点、改善点などをたくさん指摘してくる。

これに対し、Point by point Response、一問一答と訳せばわかりやすいかもしれないが、すなわち、すべての指摘に対して1つずつ返答していかなければならないのである。

誤字脱字だったら直せば良いが、リバイスの本質はそこではない。

「◯◯変異株を作ってXXの実験をしないと証明したことにはならない」と言われれば、新しい変異株を作製するところから始めなければならない。

また、テクニカルに不可能な実験を言い渡されてしまい、途方にくれることも多い。

言われたことをすべてやらなければいけないわけではないが、少なくともなんらかの返答をしなければならない。

最近はあまりにもリバイスの要求が多すぎて、追加実験などで1年以上かかるリバイスも珍しくなくなってきた。論文が採択される頃には、「いったいいつのデータだよ、これ?!」状態である。

ちなみに私の昨年(2017年)に出版したシロイヌナズナの論文では、コアとなるデータはなんと2009~2010年くらいのものである。2015年に明治大学へ異動したのでそのせいもあるが、それにしても、である。

この論文では、他の雑誌でリバイス実験(追加実験)を2015年~2017年くらいまでやっていた。そう、丸2年間くらいである。

そして、ついに通った!・・・のではなく、リジェクト、すなわち不採択だったのである。

最終的には2017年に別の雑誌に投稿し直して、アクセプトになったが、2年くらいのリバイス期間を経て、最終的にリジェクトという目にあったのである

もちろん、残念ではあったのだが、そこはすでに大人になっていて、「まあそんなこともあるよねくらいの気持ち」である。しかし、大学院生くらいの時だったら、もう発狂しそうな状態かもしれない。

事実、私の最初の論文もリバイスは1年半かかった。最初の論文のはずが、それくらいかかったので、2本目になってしまったが。その3ヶ月前くらいに別の論文がすんなり通ったので、本当に救われた。これがなかったら、PhDを取るまで至らずにやめていたかもしれない。こういう紙一重の状態で研究している大学院生、ポスドクも多いのではないだろうか。

あまり救いにならないかもしれないが、常々、「リバイスを言われるのが当たり前」「論文投稿は終わりではなく始まり」と述べている。投稿してからがとても長いことを心に止めておかなければいけない。どうしてもすぐにアクセプトして欲しいと祈ってしまいたいところであるが、祈りではアクセプトは近づかない。

ということで、表にはリバイスの大変さがでないのであるが、みんな苦労して途中で辞めてしまいたいくらいの気分になりながら、なんとかアクセプトまで持っていっていると思う。

リバイスが苦しくても、自分だけではないことはぜひわかって欲しいと思う。初めから長期戦であることを覚悟し、途中土中休憩しながら美味しいものを食べて、長い目で少しずつ論文を改善していくことが大事であると思う。

2018年2月18日日曜日

研究室での研究は個人のプロジェクト

研究室に配属する前は、「研究生活ってどうなるんだろう?」、「研究室の人たちとうまくやっていけるだろうか?」などの疑問があると思う。

研究室というのはどこの狭い空間で、そこにたくさんの人がいる。いつもいつも和気藹々、仲良し小良しというわけにはいかない(農芸化学科の研究室は雰囲気がいいと思うが)。

当然、研究室の周りの人々とうまくやっていく必要があるのだけれど、研究室は友達を作るための場所ではないし、そんな場所であると思って入るといっぱい勉強をしなければいけない現実に遭遇して辛くなってしまうと思う。

共通の場所や機器、試薬などを使うので常に周りの人とコミュニケーションをとることが大事である。これを欠かすことはできない。しかし、無理に価値観を合わせたり、友情を芽生えさせたりする場所ではないので過度に気を使う必要はない。あくまで研究をするための場所である。

環境バイオテクノロジー研究室では、少なくとも3年生の夏からは個人のプロジェクトを進めることになる。早い人は5月終わりか6月くらいから個人のプロジェクトを進める。

もちろん、上の人たちが色々教えてくれるので過度に心配する必要はないが、自分で勉強をしていくことが必須なのはいうまでもない。

個人のプロジェクトにすると、びっくりするくらい自分でやらなければいけないことに気づく。 「今日はなんの実験をするのか?」、「必要な試薬は何か?」、「どの機器を使って、予約をする必要があるか?」などなど、無数に自分で考えて行動しなければいけないことが出てくる。これを体験するのが研究室の醍醐味であり、個人プロジェクトを経験する大事さである。

農芸化学科の学生実習や授業でも、私の場合はかなりあいまいさを残した課題を出したりする。

1年生の実習では「自分で吸光度を考えて測定してください」であるし、2年生の実習になると、「はい、実験は終わりました。じゃあ、自由にレポートを書いてきてください」というスタイルになる。「何を書くの?」と聞きたくなるけれど、それが勝負となるのである。

高校生までは厳密に作られた問題があってそれを解いて正解があるので、最初は戸惑う。しかし、正解がなく、そもそも問題すらないのが大学であり、今後の人生なので、それにいち早く慣れてもらうためである。

研究室に配属になって個人プロジェクトになって一番悩むのは、「そもそも問題はなんだろう?」、「そもそも何をすれば良いのだろう?」という出発点を決めることである。大学教員として私が今も悩んで考えていることはこの出発点としての問題設定なのである。

したがって、研究室に配属されて研究を個人プロジェクトとして進めると、自由がゆえに迷うことがたくさん出てくると思う。そういう時に自分で勉強しつつ、色々な人とコミュニケーションをとる必要がある(コミュニケーションの取り方については別の日にブログに書きます)。個人の権限が広がるということは、面白いけれど大変なことも増えるということである。

ということで、研究室に配属されると同じように勉強をしたりするのだけれど、自分でその勉強する対象を設定しなければならず、その範囲があまりにも広いということに気づく。その中から日々うまく選択をしていくことになる。

同じ明治大学に所属していて、同じようにキャンパスに通うのだけれど、中身はガラッと変わることになる。



2018年2月17日土曜日

特許出願とは?

環境バイオテクノロジー研究室は、明治大学農学部に所属しているため、基礎研究を行うところである。しかし、農学部農芸化学科という性質上、純粋な生物のメカニズムの解明だけでなく、社会に展開できる技術の開発も志向している。

学術論文を書いて広く世間一般に公開して、世の中の科学の発展に貢献するのが1つの仕事ではある。しかし、世の中はそんなに甘くはできていない。研究も当然だがお金がかかる。研究機器や試薬は企業から購入しなければいけない。お金がなければ研究はできないのである。大学からのサポートもあるが、研究を大きく発展させるにはそれだけでは不十分なのである。

理化学研究所に在籍していた時から、特許の出願を積み上げてきた。シアノバクテリアのバイオプラスチック生産や水素生産に関するものである。一定期間(1年半くらい)をすぎると、出願した特許は公開特許公報に掲載されるので、その特許出願技術は世の中にオープンになるのである。

明治大学から出願した特許も以下のように特許の公開されている。
この特許は、水素の生産に関わるヒドロゲナーゼの発現を抑制することで、シネコシスティスのコハク酸、乳酸の生産量を増大させたものである。
http://www.conceptsengine.com/patent/application/2017070252

理化学研究所時代の特許も公開になっている。
https://www7.j-platpat.inpit.go.jp/tkk/tokujitsu/tkkt/TKKT_GM301_Detailed.action
こちらは、転写制御因子であるRre37やSigEを過剰発現させることで、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)を増大させたものである。

特許出願の仕組みはとても難しく、専門家の力が必要になる。今回したもので、前者は特許出願である。一方、後者はすでに特許庁の審査請求を経て、特許を取得している。前者については別にこの技術を使ってもライセンス料は発生しないが、当たり前だけれど同じことで特許を出願することはできない。

一方、後者についてはもし実施していたら特許権の侵害になる。特許についてはまた改めて書こうと思う。難しいので、こちらの間違いもあるといけないので。

こんな風に、実験を進めて基礎研究の成果を論文にするだけではなく、特許として公開するという手もある。ただし、特許には弁理士の方々の力が必要で、出願そして審査請求と進めるには予算が必要である。これを研究費で出すわけではないので、やはり特許の場合には、ビジネスに発展しそうな技術や成果のみに限定されることが多い。

微細藻類のバイオプラスチック生産も、いつの日か工業レベルに達することを目指して、日々研究に勤めている。

2018年2月16日金曜日

ユーグレナによるコハク酸生産

"Succinate and Lactate Production from Euglena gracilis during Dark, Anaerobic Conditions."

Tomita Y, Yoshioka K, Iijima H, Nakashima A, Iwata O, Suzuki K, Hasunuma T, Kondo A, Hirai MY, Osanai T.

Front. Microbiol. 2016, 7:2050.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28066371

これまで発表した論文は、すべてシアノバクテリア、しかも単細胞性非窒素固定型として世界中でモデル生物として使われているシネコシスティスが研究対象であった。この論文は私にとって、初めてのシアノバクテリア以外となる。

ユーグレナは別名ミドリムシと呼ばれている。小学生や中学生のころに池から採ってきて顕微鏡で覗いたことがあるかもしれない。直径が10~30マイクロメートルなので、光学顕微鏡で見ることができる生物である。

ユーグレナは藻類であるため、光合成を行うことができる。また、鞭毛によって水中を泳ぐこともできる。その進化は結構複雑で、何回かの共生を経て現在のユーグレナになったと言われている。

ユーグレナは、株式会社ユーグレナによって世間一般にも広く知れ渡るようになった。科学未来館で売られたミドリムシクッキーという1枚にユーグレナが数億匹?入ったクッキーが話題となった。その後、お菓子や飲料など、様々な商品にミドリムシが入り、広く一般にも販売されるようになっている。

このユーグレナは食品だけでなく、新しい展開も模索されている。ユーグレナを使ったワックスエステルという燃料物質の生産も計画されており、車や飛行機の燃料として使われることが期待されている。

そんな中、我々が発見したのは、ユーグレナがプラスチック原料であるコハク酸を生産するということである。

先行研究で、シアノバクテリアを暗・嫌気条件、すなわち発酵条件にするとコハク酸が細胞外に放出されることを発見した。そこで別の生物でも試してみようとしたのである。せっかくなら商業化されている生物ということで、ユーグレナを試してみた。

この研究は、株式会社ユーグレナとの共同研究であり、理化学研究所時代に始めたものである。たまたまユーグレナ社の研究所が理研の近く(横浜市鶴見区)に引っ越してきたので、「じゃあやってみましょう」という軽いノリで始めたものである。その時はこんなにうまくいくとは夢にも思っていなかった。

その結果、ユーグレナも同じく発酵条件でコハク酸を細胞外に放出することがわかった。特に、ユーグレナをあらかじめ窒素欠乏条件にした後に発酵させると、コハク酸生産量が劇的に増えることが明らかになった。
窒素欠乏条件ではパラミロンという炭素貯蔵源が増加し、発酵条件ではこのパラミロンを分解してコハク酸を作るため、このような効果が現れたのではないかと予想している。遺伝子組換えを行っていないユーグレナの生産量は800 mg/L以上となかなか高く、今後も期待が大きい。

ユーグレナがプラスチック原料を生産するということを発見し、これは新聞にも取り上げられ、反響もあった。シアノバクテリア以外の初めての論文ということもあり、私としても感慨深い論文の1つである。

2018年2月15日木曜日

ヒスチジンキナーゼによる光合成とアミノ酸代謝の改変

"Modification of photosynthetic electron transport and amino acid levels by overexpression of a circadian-related histidine kinase hik8 in Synechocystis sp. PCC 6803."

Kuwahara A*, Arisaka S*, Takeya M*, Iijima H, Hirai MY, Osanai T.

Front. Microbiol. 2015, 6:1150. *同等貢献

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26539179

この論文からいよいよ明治大学環境バイオテクノロジー研究室の学生が登場してくる。

このHik8は、シネココッカスSasAのホモログである。SasAは、概日リズム(サーカディアンリズム)を作る時計タンパク質であるKaiCに相互作用するヒスチジンキナーゼである。すなわち、時計の情報で伝達するヒスチジンキナーゼである。

シネコシスティスにおいて、Hik8もKaiCとin vivoで相互作用することから、時計の情報を伝達していると考えられるが、詳細は不明である。

前回の論文でHik8過剰発現株を作製し、糖やアミノ酸の代謝が変化することが分かった。代謝とサーカディアンリズムは密接な関係があるため、Hik8の遺伝子改変で代謝が変わることは予想できたことである(ただし、どのように変わるかはいまいち予測できない)。

ところで、サーカディアンリズムに従うのは代謝だけではない。光合成もサーカディアンリズムで変動する

これはとてもわかりやすく、昼に光合成の遺伝子発現が増加し、夜に減少する。とてもシンプルだが必要な動きだろう。

ともなれば時計の情報を担うと考えられているHik8過剰発現株でも光合成が変化するはずである、というわかりやすい仮説を立て、検証したのが本論文である。

酸素電極やクロロフィル蛍光測定の結果、Hik8過剰発現株では、光合成や呼吸の活性に変化があるとが明らかになった。
光合成活性が増大すれば良かったが、残念ながら光合成活性は低下する傾向にあった。不思議な点であるが、光合成に関連する遺伝子発現は、むしろすべて増加していた。遺伝子発現が増加すれば光合成が強化されるわけではないという、光合成の難しさの一面も垣間見えた。

光合成の研究というのは非常に難しく、植物や藻類を扱っているからできるかというと、そういうわけではない。むしろ難しいので、多くの研究者が避ける分野なのである。

私も光合成の専門家ではないが、酸素電極や簡易的なクロロフィル蛍光測定を駆使して、光合成の解析を行いたいと考えている。

なぜなら、光合成は、地球上の生命を支えている最も重要な化学反応の1つだからである。



ところでHik8は概日リズムを伝えていると述べたが、そのほかにも光シグナルや栄養シグナルが時計には入力されていると考えらえている。このような時計タンパク質を中心としたシグナル伝達にも注目していきたいと考えている。


2018年2月14日水曜日

★論文査読あるある★ No.2 〜審査結果こないんですけど!?〜

★論文査読あるある★ No.2 は、審査結果こないんですけど!?にしようと思う。

論文を投稿して、審査結果が出るまでは非常にヤキモキする時間である。最近はだんだん気にならなくなってきたが、最初の1〜3本の論文では、審査結果を待つ日々は、まさに一日千秋の思いなのではないかと思う。

生物系の論文の話であるが、投稿してから審査結果の連絡がくるまでの時間は、1ヶ月前後が平均ではないだろうか(速報誌は除く)。

1ヶ月足らずで返ってくると今回は早いなと思うし、1ヶ月を過ぎてくると、さあ、そろそろ催促しようかなと思う。他の人はどうかわからないが、私の場合はこんな感じである。

ちなみに、雑誌によっては平均の査読期間が公表されている。しかし、1回目の投稿だけではなく、2回目、3回目の投稿論文の査読期間も平均に入れている場合があるので注意が必要である。すなわち、リバイスの実験が完璧で、エディターがすぐにアクセプトする場合は、投稿してから3、4日でアクセプトになる。これも計算に入っている場合もあるので、少し長めに考えておいた方がよい。

さて、困るのが、審査結果がなかなか来ない時である。私の経験で、一番長かったのが4ヶ月かかった時である。しかも長いリバイスを言い渡されて、その挙句にリジェクトというひどい目にあった。

それだけならばまあ仕方がないが、その際におそらく審査員と思われる研究者が、類似の論文を他の雑誌に極めて短い審査期間で投稿・掲載していた。上の年代の研究者ならば、一度くらいはこういう目にあったことがあるのではないかと思う。

他にも2ヶ月以上かかったことが3、4回あるだろうか。こうなるとさすがにどうにかしてくれと言いたくなる。

この原因としては上記を加えて3つあった。
1. 審査員(レビューアー)が審査を止めていた。
2. エディターがほっといていた。
3. エディターにすら届いていなかった。

3.についてはまともな雑誌ならない。やはり名の知られた雑誌に投稿するのが大事である。

2.については最近のことで、とりえず雑誌の方から催促をしてみた。そうしたら、なんと最初の審査の前にエディターが交代するという事態になった。おそらく放っておいたみたいだである。なんとも無責任である。

このような事態は残念だが起こりうることである。催促で大事なことは、「怒りをぶつけないこと」である。文句を言いたいところであるが、「早くしろ!」みたいなメールは絶対にしてはいけない。エディターもレビューアーもボランティアでやっている。そして、残念ながら、立場はエディターとレビューアーが圧倒的に上なのである。

とにかく、「大事な研究成果を広めるためには、迅速な審査が必要である」、「早い審査は雑誌の価値を高めるのに重要である」など、文句にならない形で催促をするのが必須である。

ということで、審査結果がなかなかこないとイライラしてしまうのであるが、理不尽な局面でもうまく催促して対処するのが大事である。。


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2018年2月13日火曜日

水素とコハク酸の関係、hoxH欠損によるコハク酸増産

"Metabolomics-based analysis revealing the alteration of primary carbon metabolism by the genetic manipulation of a hydrogenase HoxH in Synechocystis sp. PCC 6803."

H Iijima, T Shirai, M Okamoto, F Pinto, P Tamagnini, T Hasunuma, A Kondo, MY Hirai, T Osanai

Algal Research, 18:305-318.

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211926416302247

こちらはコハク酸増産についての論文。単細胞性シアノバクテリアSynechocystisの話である。

コハク酸というバイオプラスチック原料が、暗・嫌気条件(すなわち発酵条件)でシネコシスティスの細胞外に放出されることが明らかになった。コハク酸量を増やす方法を探索するのが、当研究室のメインテーマの1つである。

暗・嫌気条件では、シネコシスティスは水素を生産することが知られている。水素は、次世代エネルギーとしても知られている物質である。過去には、RNAポリメラーゼシグマ因子SigEの過剰発現によって、水素の生産量を増加させるという論文も書いた。

コハク酸と水素はどちらも暗・嫌気条件で生産される。そして、どちらの物質も還元力(NAD(P)H)を生合成に必要とする。このことから、コハク酸生産と水素生産が競合している可能性が考えられた。そこで、水素生産を減少させれば、コハク酸生産が増えるのではないかと考えた。

シネコシスティスでは、水素はヒドロゲナーゼという酵素によって生産される。ヒドロゲナーゼはHoxEFHUYという5つのサブユニットからなることが知られている。このうち、活性に必須なHoxHの破壊株の作製を試みた。

しかし、完全破壊は致死的になるためか、hoxHの発現は完全にはなくならなかった。しかし、hoxHの発現が低下し、水素の生産量が低下したhoxH変異株が得られた。


このhoxH変異株を用いて、コハク酸などの有機酸の生産量を調べたところ、コハク酸と乳酸の量が増加し、酢酸の量が低下することが明らかになった。


コハク酸と乳酸の生合成は還元力NAD(P)Hを必要とするが、酢酸は必要としない。水素生産が低下することで還元力が余ったため、還元力を消費するコハク酸と乳酸の生産量が増加し、酢酸の生産量が低下したのだと考えられる。生物は本当によくできているものである。

また、hoxH変異株でトランスクリプトーム解析を行ったところ、糖異化遺伝子群の発現が増加していることがわかった。特にRNAポリメラーゼシグマ因子sigEの発現とSigEレギュロンの発現が増加していたことから、SigEのタンパク質量も調べたところ、hoxH変異によってSigEタンパク質量が増加することがわかった。SigEは糖異化を促進する因子であるので、このSigEタンパク質の増加も、コハク酸生産量が増加した一因の1つであると考えられる。

水素の合成酵素を改変するという少し変わった方法で、コハク酸の増産に成功したのである。

当該内容は、明治大学から特許出願も行っている。
http://www.conceptsengine.com/patent/application/2017070252

このように、環境バイオテクノロジー研究室では、バイオプラスチック原料などに関する特許出願や論文の発表を積極的に行っている。

2018年2月12日月曜日

★論文査読あるある★ No.1 〜はじめての論文投稿のときは・・〜

明治大学農学部農芸化学科に発足した環境バイオテクノロジー研究室も丸3年が経とうとしている。

学生、ポスドク共に論文をたくさん投稿するようになってきた。めでたいことである。

めでたいことであるが、論文の審査、すなわち「査読」はとてもつらいものである。論文というものは書いて投稿すれば掲載されるものではない。つらいことがわかっていないと、大きなショックを受けてしまい、研究そのものを辞めることになると言っても過言ではない。

自分の過去を振り返っても、初めての論文投稿および査読の期間が本当につらくてつらくて仕方なかった。

そこで、査読の時にどのような目に遭うのかを紹介しようと思う。

これを知っていれば多少なりとも落ち着くだろうし、「自分だけ理不尽な目になっているんじゃないんだ!」と思えるだろう。研究は人間がやっているものなので、心と体の安定をキープしていくことも大事である。

ということで、論文査読あるあるとして、体験談を語っていきたいと思う。語れることがたくさんある。。シリーズ化しようと思う。

はじめに大事なことであるが、上記の通り、論文というものは書いて投稿すれば掲載されるものではなく、有名な雑誌・ジャーナルほど審査(査読)が厳しくなる。

最初の論文では、実験をして、さらに文献をたくさん読み、論文を書き上げる。責任著者と主にやり取りをして、議論を重ねあげながら作っていく。

これらによって、論文が完成して投稿した時点でかなり疲れている。

なので、そのままの形で査読を通過して掲載(アクセプト)になって欲しいと願う。人間の心理としては仕方ないところである。

しかし、即アクセプトなんてほとんどない。マイナーリビジョン(Minor revision)(文章など少し直せばOK)なんていうのもほとんどない(少なくとも私の場合は)。

たくさんの追加実験を要求されるのがむしろ普通である。

追加実験を要求して、それらができればOKというのがメジャーリビジョン(Mejor revision)である。

はじめはこの返事をもらっただけで、「追加実験がこんなに・・・」とぐったりしてしまったり、査読者に怒りをぶちまけたりする。

しかし、このメジャーリビジョンはむしろ良い返事である。

私の場合、最終的に掲載された雑誌ですら、多くの論文の最初の判定はリジェクト(Reject)、すなわち掲載不可であった。

上記の通り、リビジョンは「追加実験をしたら査読を通す」のが原則である。しかし、それでも通らないことも多い。そうすると、著者と査読者の側で揉めることになる。

ということで、最近はとりあえずメジャーリビジョンではなく、リジェクトで返すことも多い

Reject but encourage resubmission(不可だが再投稿を促す)と書いてあることがある。これば実質的なリビジョンであったりする。

また、ただのRejectであるが、追加実験項目がたくさん書いてあり、オンラインの投稿画面を見ると再投稿できるようになっている。

これを見て、「よし、リバイスだ!」と自分でポジティブに解釈して、再挑戦するのである。それなりに良い雑誌に通す時にはこれくらいの精神力が必要である。

もちろん、追加実験をして再投稿してもリジェクトのことも多いが、私の場合、それなりに良い雑誌はほとんどこのパターンである。良い雑誌と言ってもNatureとかではなく、PNASはおろか、The Plant Journal、Plant Physiologyなどの専門誌でもこのパターンが多かった。それくらい論文査読は大変なものである。

ということで、査読あるあるの1つは、はじめに投稿すると良い返事を期待しているので凹むが、実際にはリジェクトでも戦えるということだろうか。

論文は想像をはるかに超えて通りにくいものであるので、通った時の気分は格別である。

No.2に続く。

2018年2月11日日曜日

人工イクラの作製。。

そういえば、子供のころ何が好きだったかといえば、「イクラ」だった。白いご飯にイクラを乗せて食べるのが何よりも好きで、ご飯3杯くらい食べることもあった。今も好きであるけれど。

イクラは当然鮭の卵であるが、実際には鮭だけではなく鱒の卵なんかも食べるらしい。イクラは魚から取れるものであるが、人工のイクラも作れる。人工イクラは食品としても売られている。

この人工イクラをどうやってつくるかというと、アルギン酸という糖を使うのである。

アルギン酸は、褐藻(例えば昆布)などの藻類から取れる多糖である。これらは食品添加物として実際に売られているし、食品にも使われている。増粘剤、ゲル化剤として使われている。
アルギン酸Wikipedia

アルギン酸ナトリウム塩を水に溶かして、アルギン酸水溶液を作製する。濃度は1%~5%くらいでよい。なかなか溶けないので、辛抱強く攪拌するか、軽く熱をかける。

また、カルシウムの水溶液(塩化カルシウムや乳酸カルシウム)を別に作製する。こちらは10%くらいの濃度で作製する。

作ったアルギン酸水溶液をピペットで吸って、カルシウム水溶液に滴下していったのが下の動画である。

このように、カルシウム水溶液にアルギン酸が触れると、アルギン酸カルシウムが形成され、人工的な膜を作って球状になる。

ちなみにアルギン酸水溶液に青色が着いているが、これはフィコシアニンという食用色素である。フィコシアニンは別の記事に書いているが、シアノバクテリアや紅藻から取れる食用の青色色素である(藻類から取れる食品添加物のコラボである)。アルギン酸は白色なので色はない。

このように、藻類は食品そのものとしてだけではなく、さまざまな食品添加物を合成することもできる。食品添加物というと、なんか化学合成で体に悪いイメージがあるが、このように藻類から天然の食品添加物を取ることもできるのである。

科学の実験としても面白いので、物事を多面的に捉え、いろいろな分野に応用して欲しいと考えている。

2018年2月10日土曜日

理化学研究所(RIKEN)とは?No.2 〜研究者の雇用問題について〜

理化学研究所(RIKEN)とは?No.2は、研究者の雇用問題についてである。


SNSでもしばしば議論が熱くなるが、職の安定は人生にとって死活問題である。

昔は、定年まで一つの会社に尽くすのが当たり前であり、終身雇用のような安定感があった(実際には会社によってそんなこともないだろうけれど)。

ところがバブル崩壊以降、リストラなんてニュースでさらっと流れて終わりになるくらい当たり前になってしまった。

一旦勤めた会社もすぐに転職する。昔ちょうど30歳の時に高校の同級生5人くらいで集まったが、一つの会社に勤め続けている人は一人もいなかった。そういう時代である。

そんな中でも研究者が相対的に不安定なのは結構知られているかもしれない。噂に尾ひれがついて、研究者は相当危ないのではないかと思ってしまい、研究者を目指すこと自体やめてしまっている人も多い。

理化学研究所は、全体の予算が豊富であるので、中で働いている人は高給取りで贅沢でもしていると思われているかもしれない。

しかし、実際には研究者の雇用契約は年度更新である。すなわち、一年ごとに契約を結び直しており(単年度契約)、年度末に「ごめん、来年は契約ないです」と言わればそれまでである。

また、かなり上のポジションでない限り退職金もない。かなり上のポジションとは、なんとPI(研究室の長)ですら退職金がない。PIでも実は年度更新である。おそろしい。PIの中で定年制になって、やっとおそらく退職金が発生するのではないかと思う(これは未確認情報)。

当然、研究員(博士号を持っている研究者)、テクニカルスタッフなどはほとんど定年制ではないし、賞与もない。すべて年度更新である(ごく一部、定年制の研究員もいる)。

さらに今度は5年ルール(研究者は10年ルール)が登場した。これは理化学研究所だけの問題ではなく、研究界隈全体の問題である。

5年以上働いた場合は、雇用主はその人を無期雇用にしなければならないというルールである。改正労働契約法である。
ところが、上に述べた通り、PIですら定年制でない研究所で、無期雇用にできるはずもない。ということで、5年または10年で契約を打ち切らなければならないのである。

すでに理研では現実問題として始まっていて、長年勤めた凄腕のパート・アシスタントが一旦辞める、または、これを機に辞めるということが起こっている。

理化学研究所だけではなく、大学などでも問題になっている。

予算があるのならば全員無期雇用にすればいいのだけれど、予算がないからなんとか単年度契約で予算を取ってきて繋げているのであるが、予算獲得以外のハードルができてしまった。職の不安定に追い討ちをかける出来事である。

理化学研究所自体は安定でなくならないのかもしれないが、自分のポジションは全く安定でないのが理化学研究所である。このような状況で研究成果を挙げなければいけないので、結構辛い。

自分も理研の時は3時半〜4時半くらいに勝手に目が覚めた。来年度のことを考えるとおちおち眠れないので、起きて論文を書いていた覚えがある。

ということで研究環境はよいのであるが、雇用に関しては良いとは言えない理化学研究所。

理研に限らず、他の大学も研究者の待遇はあまり良くないので、なんとか研究者の雇用環境をよくしていく方策を打ち出していきたいと考えている。

2018年2月9日金曜日

新メンバー決定まであと1ヶ月!

今年の研究室配属決定の会は、3月2日。いよいよあと1ヶ月である。明治大学農学部では、3年生から研究室配属になる。



今年の人数はまだ確定していないけれど、一研究室あたり7〜8人くらいだろうか。農芸化学科では、研究室あたりの人数が均等になるように配属枠がある。競争となった場合は2年生終わりまでの成績(GPA)順となる。

研究室は配属枠の中で、学生が選ぶ。教員に学生を選ぶ権利は一切ないのが農芸化学科の特徴でもある。正直、「学生を選んでください」と言われてもきついのでこれで良い気もする(一人くらいドラフト枠みたいなのがあっても面白い気もするけれど、不平不満が確実に生まれるので、辞めた方が良いとは思う。いや、実際には選べないと思う)。

他の記事でも書いたけれど、多くの研究室では配属決定の日に歓迎会が行われる。うちの研究室でも、せまいけれど研究室で歓迎会を行う予定である。3月始めなので、就活とか卒業・就職準備とかで全員は揃わないのだけれど、研究室が狭いからまあちょうどいいのかもしれない。

そういえば、一期生はちょうど卒業旅行で配属決定の日にいなかった気がする。自由だなあと思うが、それくらい権利とそして責任が与えられるのが研究室配属以後であると思う。

私は学生に、学部生は半分社会人、大学院生はほとんど社会人であるとよく言う。もちろん、学生ではあるのだけれど、そのような意識で勉強して欲しいと思っている。そうすると、実際に社会人になってから研究室が役に立たなかったなんて言わないと思う。どれくらい研究室で鍛えておくかでその後の社会人生活が変わってくるので、ぜひ貴重な時間を有意義に使って欲しいと思う。

研究室配属に際して伝えたいことは、

1. 配属決定は終わりではなく始まりであること
2. 研究成果は努力してもなかなかでないが、努力をやめたら絶対にでないこと
3. 研究内容だけでなく、時間の使い方、予定の組み方、人とのコミュニケーションの仕方、取捨選択における考え方などを学んで欲しいこと

だろうか。大学受験と同じで、ここからまた新しい勉強の始まりなので、ゴールだと思って気を抜くとあっというまに辛い空間になってしまうと思う。ペース配分をうまく調整しながら頑張って欲しいと思う。

いずれにしても、新しいメンバーが来るので、迎える方もどきどきである。今年の新3年生ははじめて分子生物学の講義を担当し、実習の時間も多かった。さて、誰が環境バイオテクノロジー研究室に配属になるのだろうか。。いまからとても楽しみである。

2018年2月8日木曜日

ひさしぶりにICUを思い出してみる。no.3

ひさしぶりにICUを思い出してみるno.3である。

1年生はELPという英語の授業が大半を占め、ひたすら英語の勉強をさせられるのが国際基督教大学(ICU)教養学部であった(ICUには教養学部しかない)。受験勉強が終わり、大学に入学してさあ遊ぶぞ!なんて思ったら、全然遊べないじゃないか!というのは明治大学農学部だけではない(笑)

1年生は英語授業に加え、数学や生物学などの基礎科目の授業がある。また、特徴の1つが一般教育科目(General Education)で、通称ジェネードと呼ばれる科目である。

この一般教育科目(ジェネード)の特徴は、まずキリスト教概論に加え、自然科学、人文科学、社会科学などの授業を満遍なく取らなければならないことである。最終的に生物学を専攻した私だけれど、音楽の世界や西洋の劇場などなど全く異なる分野の授業を履修することになる。

また、その特徴が3年生の終わりまで一般教育科目があることである。普通は1年生で一般教育科目がだいたい終わりでより専門的な授業に入っていく。ところが、そこが教養学部(リベラルアーツ)の特徴で、一般教育科目の割合がものすごく多いのである。

これがリベラルアーツの良さであるのだけれど、どのくらい効果があるのかは正直わからない。そういった意味では、真にリベラルアーツの意味を理解していないのかもしれないが、少なくとも専門の授業が少ないので、大学院などへ進学するのに大変な思いをしたことは間違いない。

「キリスト教概論」の授業のディスカッションの際に、「もっと専門に偏って広く学んでもいいのではないか?」という意見を教授にぶつけたこともある。例えば生物学専攻ならば化学、物理、数学などいくらでも学ぶことがある。

これに対する返答は、「私はそうは思わない」というものであった。特に理由はなかった。ケースバイケースであるし、コントロールが取れるわけではないので、正解はわからないし、未だに答えは見えていない。教養学部とはそういうものであるとしかいいようがないかもしれない。

ちなみに我らが農芸化学科は、まさに専門分野を広く学んでいるのではないかと思う。化学・生物学を中心に、しかし、食品化学、微生物学、分析化学、環境化学、物理化学など少し特殊な分野が目白押しで勉強する範囲が広い。

要するに学生時代に私が主張していたことは、まさに農芸化学のように分野をせめてもう少し絞って広く学ぼうよというものである。そういった意味では、私は農芸化学に合うのかもしれない。。
(これは明大生田キャンパスの食堂の写真。ICUではない。)

では専門分野はどうするのかといえば、なんとパンフレットには専門的な研究は別の大学院でやってくださいと書いてあるのである(今のパンフレットは知らない)。リベラルアーツカレッジとは、徹底的に広く勉強し、勉強する方法を身に付けるところであって、研究をする場所ではないというスタンスである。

このため、専門分野の勉強は、だいたい他の大学の1年分位少ないというのが印象である。すなわち、よその理学部生物学科の2年生の内容を3年生でやっている。このため、大学院で外部に進学などをして外の人々と接すると、ICU生はまず壁にぶつかる。

自分たちは優秀だと思っていたのに、専門分野の勉強が1年分位少ない。そうすると専門的な知識が少なすぎて、なかなかその分野で成果を挙げることができない。そうすると、時として馬鹿にされたり、叱られたりするのである。

ここでだいたい専門分野から逃げ出そうとして、急に英語の試験を受けてみたり、留学を考えてみたり、ボランティアをしようという出すのもICU生あるあるだった。ようするに専門分野での負けを認めたくないのである。

この壁を突破できるかどうかで教養学部の真価が発揮されると思っている。専門分野で追いついた時には最初の幅の広さが役立つことだと思う(多分)。

このように、専門分野の授業が少なく、一般教養が多いのがICUの教養学部であり、卒業して他の大学の人と接するとかなりのギャップに驚くことになるのである。ここを突破できるかどうかで、教養学部の真価が問われると言っても過言ではない。

2018年2月7日水曜日

ひさしぶりにICUを思い出してみる。no.2

ICU(国際基督教大学)を思い出してみるno.2である。

国際基督教大学は、教養学部のみの大学である。私は当時あった理学科に所属していたのだけれど、3学年まで文系の授業もたくさんあり、純粋な理系ではなかった。

ICUで特徴的な授業がELP(English Learning Program)である。ようするに英語の授業である。なんと1年生の半分はこのELP、すなわち英語の授業である。色々と変わってはいるようだけれど、このELPは現在も教育の特色として残っているようである。
https://www.icu.ac.jp/about/interview_test/academics/m009/

英語をこのようにたくさん学ぶ反面、意外なこととしては、第2外国語を受講しにくかった面が挙げられる。これは、理系を専攻しようとする場合には学生実習が入るため、当然他の授業が取りにくくなる。実習のある日は、他の授業は全く取れないという理系あるあるである。現在は変わったらしいが、実習は単位が少ないということで、たくさん授業をたらなければいけない。こちらも理系あるあるである(明治大学農学部も同じ。。)。

ELPによって、1年生はかなりの人数が夏休みに1ヶ月半ほど語学留学に出かける。2年生では人数は少ないが、なんと数ヶ月間語学留学をする(現在の制度は変わっているかもしれない)。

私も1年生の夏休みに1ヶ月半ほどスコットランドのエディンバラ大学に語学留学に行った。最初の半分はホームステイで、残り半分は大学の寮に入った。

初めての長期での滞在だったので、苦労をしたのは覚えている。ホストファミリーは良い人たちだったのだが、なかなか英語がわからなくて、みんなが一緒に喋ると全然わからなかった記憶がある。

ICUは帰国子女や海外滞在経験がある人が多く、そういう経験がほとんどなかった私は結構苦労した。1回目の語学留学で全然わからずに悔しかったので、1年間お金を貯めて、2年生の夏休みには自分で申し込んだ語学留学に1ヶ月(アメリカ、ワシントンDC)に行った。懐かしい思い出である。

ELPの授業では、ライティングよりもディスカッションの時間が多かった気がする。基本的に授業は英語しか使わない。外国人の先生が1学期間クラスの担任のようにして授業を行っていた。1クラスは20名くらいであった。

このELPのクラスは「セクション」と呼ばれ、その中のメンバーを「セクションメイト」から「セクメ」と呼ばれていた。最初はこのメンバーのほとんどをファーストネームで呼び合う。よって、1年生の最初の頃の友人はファーストネームで呼んでいたりする。

しかし、2年生以降に知り合った人については、だんだん違和感を覚え、普通に苗字やニックネームになったりする。いろんな文化が混じり合い、よく分からないのがICUの中身だったりする(笑)。

ELPも宿題のようなものがたくさん出され、もちろん予習も要求される。分厚い黄色い教科書を渡されるのであるが、現在はどうなっているのだろうか。

現在の明治大学農学部もそうなのであるが、ICUも入学してから勉強ばかりで遊びで楽しかった記憶が全然ない(笑、いや泣)。しかし、振り返ってみると、例えば大学時代のアルバイト先での飲み会などは、楽しかったけれどあまり得るものがなかった。大学生的な楽しみは少なかったけれど、正直勉強しておいてよかったというのが現在の感想である(負け惜しみではない・・・)。

ということで、御多分に洩れず、大学に入って遊べるかと思ったらそれは全くの誤解だったというのがICUでの大学生活である。

no.3に続く。

2018年2月6日火曜日

ひさしぶりにICUを思い出してみる。no.1

そういえば久しく行っていないが、自分の出身大学である国際基督教大学について、語ってみようと思う。

国際基督教大学、International Christian Universityで通称ICU(アイシーユー)。国際基督教大学とは呼ばずにICUと呼ぶ場合が多い。地元三鷹市の人は「キリ大」と呼ぶらしいが、大学内部の人はほとんど使わない。

国際基督教大学

東京都三鷹市にあり、中央線の武蔵境駅が最寄りである。住宅街として人気の中央線である。新宿からわずか15~20分で、駅からは少し離れているが、結構都会に広大な敷地を占めている。少人数の大学にしては極めて自然豊かで贅沢な環境となっている。

最近ではICUといえば眞子様、佳子様のご入学である。このニュースでとても有名になったが、知らない人からすると「神父さんや牧師さんになるんですか?」と言われるのがICUあるあるである。宗教学の専攻もあると思うが、その道に進む人は少ないと思う。

学部は教養学部しかない。英語ではCollege of Liberal Arts。これでけである。最近はだいぶリベラルアーツという言葉も聞くようになってきた。一学年が500人くらいなので、小さい大学である。敷地は広くてとても気持ちがいい。

リベラルアーツとは何かと聞かれても、難しい。そんな解説はおこがましいが、簡単に言えば広い学問分野を横断的に学ぶことであると思う。もともとは理学科、人文学科などがあったが、それらを無くしたのもリベラルアーツの概念と矛盾するからかもしれない。

リベラルアーツに関するこんな記事もあった。
http://toyokeizai.net/articles/-/13769

日本の大学だと、1年時に外国語や基礎的な授業もあるが、2年生から専門的な授業に入ることが多い。一方、リベラルアーツカレッジの場合、卒業まで色々な分野を横断的に勉強することになる。

ICUのパンフレットにも書いてあったのだが(今は知らないが)、「専門的な研究は大学院で進めてください」と書いてある。これがリベラルアーツカレッジの特徴で、総合大学との違いである。大学生のうちは、幅広い分野を学び、専門は後にするという考えである。昨今はむしろ大学に職業訓練・実践的な教育を求める声も多い。このように広く学んで専門の勉強を後にすることについての是非については、議論があることだろう。人それぞれなので、結論を出すことはとても難しいと思う。

私が入学が1998年、卒業が2002年である。その当時は教養学部の中でも6つの学科(社会科学科、国際関係学科、人文科学科、教育学科、理学科、語学科)があり、3年生次に専攻を選ぶことになっていた。私の場合、入学時に理学科に選択し、3年時に生物学専攻を選んだのである。しかも、入学時には希望の学科に入れるとは限らず、点数が足りていても定員が埋まると他の学科になるという受験システムだった

また、成績をきちんと取っていると、入学後に転科をすることも可能であった。3年生になってやっと生物学を専攻することが決まるというシステムで、それまでは物理や化学、情報科学が専門になる可能性もあった。

ICUは入学試験の方式が変わっている。今と異なるみたいだけれど、昔は国語的な長文読解、自然科学2科目、英語に加え、クイズみたいなものがあった(名前は忘れた・・・)。

例えば、
Q. すべての宇宙人が魚介類が好きだと仮定すると
A. 宇宙人以外は魚介類が好きではない
B. 宇宙人は肉が食べられない
C. 宇宙人は野菜を食べる可能性がある


という問題を延々と解いていくテストがあった。そもそもICUを受けようと思ったきっかけが、受験勉強で疲れていた高校生時に「変な問題がある!?」と思って興味を持ったためである。

受験対策も何もないので、普通に受験勉強をしていたのを覚えている。英語はとにかく長文であったことを覚えている。

今は調べたら入試科目が変わっていた。
https://www.icu.ac.jp/admissions/april/request/application04.html
総合教養という講義を聞いて答える形式のテストができたらしい。時代は流れるものであるが、昔のクイズがなくなったのは少し寂しい。あのテストが面白かったのだけれど・・・

no. 2につづく。

2018年2月5日月曜日

Cyanobacteria cultivation

BG-11 medium for cyanobacterial cultivation (for Synechocystis  and Synechococcus species)

1. Making Six stock solutions
Stock Sol. I
Citric acid 0.6 g 
Ferric ammonium citrate 0.6 g
Na
2EDTA 0.1 g /200 ml 

Stock Sol. II
NaNO3 30 g
K
2HPO4 0.78 g 
MgSO4・7H2O 1.5 g /1L 

Stock Sol. III
CaCl2・2H2O 3.8 g /200 ml 

Stock Sol. IV
Na2CO3 4 g/200 ml 

Stock Sol. V
H3BO3 2.86 g
MnCl
2・4H2O 1.81 g
ZnSO
4・7H2O 0.22 g
CuSO
4・5H2O 0.08 g
Na
2MoO4・2H2O 0.021 g
H
2SO4 50 uL 10% H2SOsolutoin
Add MilliQ to 1L
mix them and then add cobalt powder
Co(NO
3)2・6H2O 0.0494 g 

1 M HEPES-KOH (pH7.8)
dissolve HEPES power and adjust the pH to 7.8 by KOH.

Stock Sol. I is sterilized by filtration and 1 M HEPES-KOH is sterilized by autoclave.
All stock solutions are stored at 4℃

2. Making BG-11 medium
Add 
50 mL Stock Sol. II, 
20 mL HEPES-KOH, 
2 mL Stock Sol. III, 
1 mL Stock Sol. IV
1 mL Stock Sol. V. to 900 mL MillQ 
and then add MilliQ to 1L.
After autoclave, add 2 mL Stock Sol. I to 1 L BG-11 medium. BG-11 medium is stored at room temperature.

3. Cultivation conditions
i. Light
White Light, 30~100 μmol photons m-2s-1, at 25~34℃.
(In our case, 50~70 μmol photons m-2s-1, 30℃
ii. Air
Bubbling 1~3% CO2 to liquid BG-11 medium during cultivation
iii. Growth monitoring
The growth can be monitored by measuring OD730 or OD750.


4. Making freeze stocks
Concentrate 20~30 mL cells (OD730 = 1~2) to 500 μL by centrifugation (at Room temperature)

Add 40 μL DMSO and mix thoroughly

Store at -80℃

理化学研究所(RIKEN)とは?No.1 〜捏造スキャンダルの影響〜

そういえば、先日理化学研究所に久しぶりに行ってきた。先月は横浜、今月は和光市の方に行ってきた。

3年前の2015年4月に着任する前は、理化学研究所に在籍していた。現在も客員研究員として、横浜の元の研究室である平井チームと和光の沼田チームに所属している。ということで、カードを持っているので、理研には自由に出入りすることができる。。

理化学研究所、通称理研は日本最大の基礎科学の研究所である。英語だと、Institute of Physical and Chemical Researchだが、最近はRIKENとそのまま書いていることの方が多い。海外でもRIKENで通用するくらい、その筋では知られている。文部科学省所管の独立行政法人である。



英語の名前の通り、もともと物理と化学が強い研究所であるが、最近は生物学はもちろんあらゆる分野で日本のトップを走る研究所である。

本部は埼玉県の和光市にある(上の写真)。この間新元素を発見してニホニウムと名付けられたので、上記のような記念碑が入り口にあった。

この他にも横浜、神戸や播磨、名古屋や仙台、鶴岡にもある。非常に大きい総合研究拠点である。

全部で3500名以上の研究者・技術者・事務員などが働いでおり、年間1000億円くらいの予算を費やす研究所である。
http://www.riken.jp/about/facts/

ひと昔前までは、研究界隈では知らない人はいなかったが、物を売る場所ではないので、一般の人はあまり知らなかったかもしれない。

ところが数年前の神戸研究所での捏造スキャンダルによって、良くも悪くも誰でも知っているようになってしまった理化学研究所である。

何回かに渡って、理化学研究所を紹介したいと思う。

ちなみに、いきなり脱線感はあるが、当時の捏造スキャンダルの影響について。

その当時は理研の横浜研究所に在籍していた。問題は神戸研究所であったので、全然関係ないのであるが、同じ理化学研究所での出来事である。理研にいた最後の1、2年の話である。

最初は「すごい発見が理研から!」と沸き立った。分野はだいぶ異なるが、よその研究会の人と話しても、「素晴らしい若手が現れて、理研は素晴らしい!」とみんな手放しで喜んでいた。

ところが事件以降、論文の取り下げや再実験、世間への対応など、大騒ぎになったのはご存知の通り。電車に乗ると中吊り広告で「理化学研究所の机や椅子が◯◯万円!」なんてたくさん載っていて、こんなに有名になるとはと驚いたものである。

イメージが悪くなるだけならまあいいのであるけれど、実害がかなりあったことはあまり知られていないと思う。

当時私は、科学技術振興機構から競争的資金、いわゆる研究費を獲得していた。競争的資金といえば日本学術振興会の科研費が有名である。

このような予算をとると、直接研究に使える直接経費とともに、研究機関に間接経費という予算が入る。なぜ研究機関に?と思うかもしれないが、予算を使うには各種手続きが必要だし、機器や物品、人件費などを使うには膨大な事務手続きが必要である。これらを賄うための予算である。

一方で、獲得する研究費が大きくなってくると、事務手続きだけで間接経費を費やすのは難しい。一般的な研究機関では、一部の間接経費を研究者に戻し(ポケットに入るわけではない!)、研究者はこの間接経費で研究のための補助物品、例えば実験室の棚とか椅子とかプリンタとかを購入するのである。

他にも旅費や汎用的な試薬や機器、人件費にも使えることがある。柔軟に対応できる大事な予算なのである。

研究費で買えばいいじゃないか?と思うかもれないが、このような汎用的な什器、オフィス機器は研究費(直接経費)で買えないことがほとんどである。なので、間接経費で研究環境を整えることが極めて重要なのである。

じゃあ、どれくらいの間接経費が戻ってくるか?これが研究者と研究機関でしばしばバトルになるのである。

もっとも研究者に優しい研究所・大学では50%程度の間接経費を研究者に戻してくれる。

研究費をたくさん取っているような研究所・大学だと10%程度しか戻してくれないところもある。理研もあまり戻してはくれない。「研究費をたくさん取っているでしょ」という余裕の現れとも言えなくもない。

そして、例の事件の時であるが、間接経費の戻りが0%であった。もちろん、その事件のせいだけではないようだが、0%は驚きであった。

上記の通り、間接経費は椅子や机を買うだけではない。場合によっては試薬・機器、人件費に費やされる。

ということで、この煽りで研究費が削られ、年度更新がなくなったり、新規採用を取りやめた人もいるはずである。事実、私ももし間接経費が一部戻ってきたら、パートタイマーなどを雇うつもりであった。こうして、見えないところで人件費すなわち雇用への悪影響もあった。

のっけからややネガディブな話になってしまったが、理化学研究所の紹介をしていきたいと思う。

2018年2月4日日曜日

【重要】卒論・修論チェックリスト簡易版

卒論・修論の書き方の簡易版、チェックリストである。

□チェック1 文章を直されて、感情的になっていないか?
□チェック2 自分で推敲した後か?
□チェック3 序論:大きい話から小さい話の順番になっているか
□チェック4 序論:文末にすべて引用がついているか?総説ばかり引用していないか?
□チェック5 材料と方法:機器や試薬のメーカー名を書いているか。
□チェック6 材料と方法:いきなり略称になっていないか。
□チェック7 材料と方法:遠心分離の遠心力と時間を書いているか?
□チェック8 結果:図の量は適切であるか?図中の文字は小さすぎないか?
□チェック9 結果:図・表に載っているものはすべて文章で説明するのが基本

□チェック10 考察:結果の繰り返しになっていないか
□チェック11 参考文献:自分でフォーマットを統一する。後でまとめて書くは厳禁。


これらはあくまで一例で、他にも直すところはたくさんあると思う。

大事なことは、これらがきちんとできていないと、「内容をディスカッションするところまで到達せず、本人の成長にあまりつながらない」ことである。

ミスだけ直しても、あまり成長にはつながらない。しかし、ミスを直すだけで時間切れになってしまうことが多々あるので、ぜひこれらをチェックした上で、さらなる議論をしてもらいたいと思う。


いよいよ修論・卒論の提出、発表の期間になるので、今年の冬は結構寒いが、健康に留意して頑張ってもらいたいと思う。

2018年2月3日土曜日

【重要】卒論・修論チェックリストNo.3

卒論・修論のチェックリスト No.3は考察・議論(ディスカッション)から。

□チェック10 考察:結果の繰り返しになっていないか
これは論文の書き方などでも書いたが、最重要項目である。

考察に何を書いていいかわからない、勉強が足りないと、ひたすら結果を繰り返すことになる。そして、「次はこんな解析をしようと思っている」という次回の実験予定を書いて終わりになる。

自分の結果が、国内外の研究と比べてどうなのか、他の生物と比較してどうなのかなどは悩んでも苦しんでも調べなければ書くことはできない。

あまりにも調べることが膨大すぎて難しいのだが、1つ1つ検索して、「自分の結果の位置づけ」を書いていく。

このような考察をすれば、当然引用がたくさんつくはずである。もしあまり引用がないようだったら、あまり調べておらず、結果を繰り返していることが多い。

□チェック11 参考文献:自分でフォーマットを統一する。後でまとめて書くは厳禁。
こちらも多いが、参考文献をみるとフォーマットがバラバラだったりする。自分で、すべてチェックして直す。特に、

i. ファーストネームとファミリーネームの順番を統一
ii. .や,の後ろに半角スペース
iii. 年や号、ページなどの順番を統一
iv. ジャーナルの略称は自分で決めたはいけない。
v. 題名を書くときにイタリックや下付き・上付きなどの文字がきちんと書かれているか

などを自分で直す。ここでもそうだけれど、書くのは自分であって、「誰かに直してもらう」つもりだと、どんなに優秀な人が書いても見るに堪えない文章となる(教員も同じ)。

とりあえず、チェック項目は11個に。例によって、次の記事では簡易版を書きます。

2018年2月2日金曜日

【重要】卒論・修論チェックリストNo.2

卒論・修論のチェックリストNo.2は、材料と方法から

□チェック5 材料と方法:機器や試薬のメーカー名を書いているか。
分析機器や試薬などを記載していくが、すべてメーカー名を記載する。
例 SPM-9700(島津製作所)などである。

厳密には(島津製作所、京都、日本)など、都市と国を書くがこれは修論などのスタイルによる。

□チェック6 材料と方法:いきなり略称になっていないか。
GC-MS, HPLC, 
RT-PCRなど普段使っていると当たり前になってしまうが、これらは最初に出てくる時にかっこ付けで説明をしなければならない。

例 ガスクロマトグラフィー-マススペクトロメトリー(GC-MS)

また、普段自分が使っている変異株の説明も必須である。つい忘れて説明なしで略称のまま使ってしまうことも多い。

□チェック7 材料と方法:遠心分離の遠心力と時間を書いているか?
各論で申し訳ないが、遠心分離はバイオでは必須な手法である。遠心分離では、必ず回転速度と時間を記載する。

回転速度であるrpmではなく、遠心力(遠心加速度)x gで記載する。

書き方は5,000 x g と半角を前後に開けてx(かける)を書き、小文字のgをイタリックにする。


□チェック8 結果:それぞれ図の量は適切であるか?
卒論や修論でよく見かけるのが「図の数」を競い合うことである。要するに結果が少ないと悲しかったりするので、1つの図に載せたほうが見やすいのに、2つ、3つに分割することである。

もちろん、反対に情報量が多すぎても、フォントが小さくなったり、見にくかったりするので、結果の量が適切かチェックをする。


□チェック9 結果:図・表に載っているものはすべて文章で説明するのが基本
オミクスだと例外はあるが、図・表に載っているものはすべて文章で説明するのが基本である。

「結果は、図の通りになった」というのはよくある表現だが、これは誤りで、言葉で説明する。

No. 3につづく。

2018年2月1日木曜日

【重要】卒論・修論チェックリストNo.1

年度末の今は卒論・修論・D論(博士論文)の添削が佳境かと思う。すでに提出済みの人もいるかと思うが、提出後・審査後の修正も大事である。

卒論・修論などを添削していると「科学の文章におけるよくある間違い」がある。「論文の書き方」カテゴリーに原著論文の書き方があるが、今回は卒論・修論でよくある意見を掲載したい。

□チェック1 文章を直されて、感情的になっていないか?いきなり科学と関係ないが、人間同士でなんどもやりとりをするのが卒論・修論である。たくさん直されると、「人格を否定された気分」になってしまい、喧嘩になったり、落ち込んだりすることも多々ある

文章の改良の話をしているのに、言い方・伝え方の話になってしまうことが割とある。まずは自分をみつめて、感情的になっていないことを確認するのが第一歩である。

□チェック2 自分で推敲した後か?
どんな文章にせよ、書き上げるのは大変である。教員だって文章を書いている途中では投げ出してしまいたい気分になる。正直、必ずなる。それくらい文章を作り上げるのは苦しい。

よくあるのが、「イントロ(序論)だけ書いたので添削してください」、「ディスカッションはまだです・・」など、途中で渡すパターンである。

この段階で渡しても、たいてい誤字脱字だらけだし、あとで結果の順番や論旨そのものが変わったりして、原型が跡形もなくなってしまう。

苦しいかもしれないが、「自分で完成させて、さらに何度も推敲したものが初稿」である。

私を含め、教員の文章と言えど、最初に書き上げたものはとても人には見せられない。推敲からが勝負である。

□チェック3 序論:大きい話から小さい話の順番になっているか序論では、いろいろな文献を調べてそれらをまとめていく。ゼロから作っていくので、とてもたいへんな部分である。

序論を作り上げた後、「大きい話→小さい話の順番になっているか」をチェックする必要がある。

環境問題→二酸化炭素と地球温暖化→二酸化炭素と光合成→光合成と藻類→シアノバクテリア→Synechocystis sp. PCC 6803(シアノバクテリアの一種で実験に使った属・種)

という感じで話を作る必要がある。自分が実験で使っている生物の話をつい最初に持っていってしまいがちなので注意が必要である。

□チェック4 序論:文末にすべて引用がついているか?総説ばかり引用していないか?引用はすべての文につけるのが原則である。「地球温暖化が問題になっている」くらい壮大だったらいらないかもしれないが、「本実験で用いた◯◯という生き物は◯◯という特徴をもつ」などの紹介からは厳密にはすべて引用をつける。

また、総説・Review(まとめ記事)ばかり引用するのもよくある改善点である。個別の事実は、原著論文を引用するのが原則である。これはかなり大変だけれど、この点を見ると完成度の差がすぐわかる。卒論だとそこまで注意されないかもしれないが、修論以上では必須である。



No.2につづく