2017年11月27日月曜日

バイオプラスチックPHBの増産!

"Increased bioplastic production with an RNA polymerase sigma factor SigE during nitrogen starvation in Synechocystis sp. PCC 6803."

Osanai T, Numata K, Oikawa A, Kuwahara A, Iijima H, Doi Y, Tanaka K, Saito K, Hirai MY.

DNA Res. 2013, 20:525-35.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23861321

SigEというRNAポリメラーゼシグマ因子を用いて、単細胞性シアノバクテリアであるシネコシスティスの炭素代謝を大幅に改変することができた。さてさて次はなにか有用な物質を作ろうと考えた。

2010年度より理化学研究所植物科学研究センター(現環境資源科学研究センター)に基礎科学特別研究員として異動した。通称基礎特研。3年間の任期付であるが、日本でもっとも給料のよいポスドクとして知られている。

理化学研究所に異動してすぐはシロイヌナズナの研究を行っていた。しかし、シロイヌナズナは研究の期間が長く、手軽に扱え、光合成・葉緑体のモデルであるシネコシスティスも同時に扱おうと考え、少し経ってからシアノバクテリアも研究し始めた。私は周りからシアノバクテリアをずっと続けてきたと思われているのだが、1年間くらい全く触っていなかったのである。

SigEによる糖異化促進によって、グリコーゲンの分解を促進し、アセチルCoAを増やすことができた。アセチルCoAは、クエン酸回路の手前の代謝産物であることが知られているが、他の有用物質の前駆体ともなっている。

ポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrate)、通称PHBは、アセチルCoAから3段階の反応で合成される。SigEはグリコーゲンからアセチルCoAまでの代謝反応を促進するため、SigEの過剰発現(SigEのタンパク質量を増やすこと)によって、PHBが増えるのではないかと考えた。



実際に詳しく解析してみると、なんとSigEの制御下にPHB合成酵素であるPHBシンターゼが入っていることがわかった。すなわち、SigEはもともとグリコーゲンからPHBまでの代謝経路を包括的に正に制御していたのである。

SigE過剰発現株を窒素欠乏状態にしてPHBを合成させたところ、野生株と比べて2.5倍にPHB量が増加していることが明らかになった。
このように、代謝酵素の改変ではなく、SigEという「転写制御因子」を改変することによってバイオプラスチックであるPHB量を増加させることに成功した。

たった1つの遺伝子を過剰発現することで代謝経路を包括的に制御することができ、かつ、バイオプラスチックとなる代謝産物量を増加させることができる。転写制御因子の代謝工学への利用はここから始まったのである。

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