論文を投稿すると査読(審査)を受けることになる。通常は、2人〜3人のレビューアーが匿名で審査をする。それをエディターがまとめ、著者に審査結果を返すことになる。
通常は即アクセプト(採択)になることはほとんどなく、よくてリバイス(改稿を要求されること)になる。実質はリバイスだけれど、リジェクト(不採択)で一旦返されることも多い。論文アクセプトには強いメンタルが必須である。
リバイスでは、ただ文章を直せば良いだけでなく、追加の実験を要求されることが多い。この追加実験がどれくらい要求されるかで、リバイスが1ヶ月で終わることもあれば、1年以上かかることもある。論文アクセプトまでの道程としては、ここが一番大変な時である。
さて、追加実験を要求されても「その実験はできないんですけど?」ということも多い。
実験ができないというのは1)やってみたけれどうまくいかない、2)手法が確立していない、3)自分や周りの研究室に実験系がない などに分かれる。
私の場合、例えば、過去に「細胞内のマグネシウムイオン濃度を測定しなさい」というコメントがあった。
一見とても簡単そうではあるが、細胞内の代謝産物濃度の絶対定量はとても難しい。
サンプルを回収して調整する間に濃度が変わってしまうこともある。また、マグネシウムイオンはあまりよい蛍光プローブがなく、また、なぜか私の使っている生物では蛍光の定量性を悪くするような物質が含まれているようであった。
よって、1日間くらいマグネシウム欠乏にすれば、確かにあたいは減るのだけれど、環境変化などによる変化は誤差の範囲でしか検出できなかった。
さらに論文を読んでみると、「蛍光プローブを使った細胞内のマグネシウムイオンの定量は再現性が悪い」という記述もあり(こういう正直な論文はとても助かる!)、本当に困ったものである。上でいうと2)に当たるケースだと思う。
ではどうするかというと、もちろん工夫をするのは当然だが、1)のやってみたけれどうまくはいかなかったまでもっていけば、論文は基本的には通してくれる。
最初からうまくいかない前提ではダメであるが、実験というのはそう簡単に実行することができなかったりする。ある手法を開発するだけで、1本以上の論文、下手をすれば研究分野になってしまうくらいのものである。
なので、できないからといって2)や3)のまま、強引に通そうとすると、リジェクトになって返ってしまうことが多い。
繰り返すが、工夫をしてなんとかうまく実験をしてみることが大事であるけれど、正直に、「◯◯という実験をX回をしてみたが、再現性が悪く、△△を測定することはできなかった」とすれば問題ない。
一般に研究者は、実験の難しさに対しては理解がある。変にうまくいったことにしようとして捏造などの問題が発生するが、うまくいかないことを正直に書くと、論文の審査でも割と寛容なのである。
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