2017年11月16日木曜日

クロロフィル合成酵素の新たな働きを発見

"ChlH, the H subunit of the Mg-chelatase, is an anti-sigma factor for SigE in Synechocystis sp. PCC 6803."

Osanai T, Imashimizu M, Seki A, Sato S, Tabata S, Imamura S, Asayama M, Ikeuchi M, Tanaka K.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2009, 106:6860-5.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19342483

大学院生からポスドクにかけて、一つの集大成としての仕事である。一つの論文に注いだエネルギーとしては尋常なものではない。

また、なんといっても共著者のおかげである。酵母ツーハイブリッド解析では佐藤修正先生、田畑哲之先生、そして同期の今清水くんのおかげである。今清水くんは、当時シアノバクテリアのRNAポリメラーゼを精製しており、世界で一番この酵素の精製ができる人だった。過去形にしたが、今をもってしても、彼のクオリティで精製できる人は世界にはいないのかもしれない。研究内容のみならず、色々なことを考えた論文である。

先行研究で、SigEというRNAポリメラーゼシグマ因子が糖異化関連遺伝子の発現を正に制御することを発見した。糖異化とは、多糖であるグリコーゲンを分解していくことである。グリコーゲンの分解がどんな時に必要かというと、光合成ができない条件であり、一番分かりやすいのは、暗条件、夜である。暗条件にすると、糖異化関連遺伝子の発現が一過的に増加する。しかし、これらの制御因子であるSigEの量は増加しない。このことから、SigEの活性を翻訳後レベルで制御する可能性が示唆された。

この論文では、SigE結合タンパク質として、ChlHを同定した。ChlHはマグネシウムキラターゼのサブユニットの1つである。このタンパク質は、クロロフィル合成経路の酵素の1つである。

In vitroでの結合試験の結果、SigEとChlHがマグネシウム依存的に相互作用することを明らかにした。また、In vitroでの転写再構成実験によって、ChlHがSigEの転写活性を負に抑制することを発見した。

シグマ因子の活性を負に制御する因子をアンチシグマ因子と呼ぶ。この論文では、シネコシスティス細胞内において、ChlHがSigEのアンチシグマ因子として働くことを示した。このように、代謝酵素のサブユニットがアンチシグマ因子として働く例はこれが初めてであった。

マグネシウムによる結合の意義は明らかではないが、おそらく光シグナルを反映していると考えている。このように、クロロフィル合成酵素はクロロフィルの合成に働くだけでなく、転写制御にも機能することを明らかにした論文である。






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