Osanai T, Imamura S, Asayama M, Shirai M, Suzuki I, Murata N, Tanaka K.
DNA Res. 2006, 13:185-95.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17046957
これが3本目の論文である。当時博士課程3年生(D3)であった。
この論文で行ったことは極めて単純である。当時日本のシアノバクテリア研究業界は非常に力があり、世界の最先端を行っていた。
日本のシアノバクテリア研究者が協力し、マイクロアレイを完成させた。マイクロアレイ解析とは、細胞内の遺伝子発現量(mRNA量)をスライドグラスなどのチップ上で網羅的に測定する解析手法である。遺伝子発現を網羅的に測定することをトランスクリプトーム解析またはトランスクリプトミクスと呼ぶ。CyanoChipと名付けられたマイクロアレイは、タカラバイオから発売され、誰でも購入できるように製品化された(現在は販売中止になってしまった)。
このマイクロアレイを用いて、シアノバクテリア(シネコシスティス)の窒素欠乏時の転写産物量の変化を網羅的に解析した。窒素充足時と窒素欠乏後4時間の2つを比べるスナップショット解析であった。
窒素欠乏時には、光合成や炭素同化、翻訳関連の遺伝子発現が低下することや、一過的に窒素の取り込みや窒素同化関連の遺伝子発現が増加することは知られていた。
しかし、マイクロアレイを用いることで、これまで知られていなかった窒素欠乏時の転写産物量の変化が明らかになった。例えば、糖異化関連遺伝子や呼吸関連遺伝子の発現量が、窒素欠乏によって包括的に増加することが明らかになった。
この糖異化関連遺伝子の発現誘導に、シアノバクテリアにおけるグローバルな転写因子であるNtcAがり必須であることを明らかにした。一方、糖異化のグローバルレギュレーターとして同定したSigEについては、必ずしも糖異化関連遺伝子の発現誘導には必須ではなく、SigEに依存する遺伝子と依存しない遺伝子があることが明らかになった。
このように、シアノバクテリアの窒素欠乏時の転写産物量の変化を初めて網羅的に明らかにするとともに、複数の転写制御因子が糖異化関連遺伝子の転写制御に関わることを明らかにした。
マイクロアレイの実験は、1回行うだけで10万円以上かかる。かなり緊張しながら実験をしたのは良い思い出ある。結果としては、ほとんどミスったことはなかったが、保管が悪くてシグナルが低下するなどはあった。現在は、CyanoChipは販売中止になっており、個別に作らなければいけないのが残念がところである。
0 件のコメント:
コメントを投稿