"Genetic engineering of group 2 sigma factor SigE widely activates expressions of sugar catabolic genes in Synechocystis species PCC 6803."
Osanai T, Oikawa A, Azuma M, Tanaka K, Saito K, Hirai MY, Ikeuchi M.
J. Biol. Chem. 2011, 286:30962-71.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21757761
学位を取得後、東大総合文化研究科の池内先生の研究室に日本学術振興会特別研究員(PD)として移った。ポスドク生活のスタートである。
はじめの1年間はあまりうまくいかず。3つ、4つのテーマを試したが、ぱっとせず。さらっと書いているが、大変なことである💦。
当時の研究室に遺伝子の過剰発現用のベクターがあった。しかし、もっぱら酵素の精製用に使われており、遺伝子工学として細胞や代謝の改変には使われていなかった。
そこでこのベクターを用いて、細胞の改変、特に代謝工学を行おうと考えた。すでに糖異化のグローバルレギュレーターであるSigEを同定していたので、このSigEを過剰発現すれば代謝が大きく変化すると考えた。特にグリコーゲンという炭素の塊の分解を促進する因子なので、炭素の流れを変えて色々な物質の生産に利用できるのではないかと考えた。
このコンセプトは、今に至るまで続いているのだが、当時の反応は至って冷ややか。代謝工学が流行る前だったので日本のシアノバクテリアの分子生物学の研究者からはあまり良い反応を得られなかった。唯一、味の素(株)の研究者が発表を聞いて、これは何か発展するのではないかと期待をもって声をかけてくれたことを今でも覚えている。
ところが、論文はJ. Biol. Chem.という生化学伝統の雑誌に、割とあっさりと通った。そして、ちょうどこのころ代謝工学ブームがやってくる。アメリカの研究者の先見性と懐の深さには本当に頭が下がる。
そして、この論文より強力な味方である山形大学及川先生とコラボすることができた。及川さんには現在に至るまでずっとお世話になっている。この論文でキャピラリー電気泳動マススペクトロメトリーによるメタボローム(CE-MS)解析を行って頂いた。この解析の結果、SigEを過剰発現することで、アセチルCoAやクエン酸などの糖異化下流の代謝産物が増加することが明らかになった。
このSigE過剰発現株は、今に至るまで非常に重要な代謝工学の基礎となる大事なものである。そして、理化学研究所に移籍して、すばらしい共同研究者に恵まれ、研究が加速していくことになる。
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