明治大学に来てから、せっかくなので新しい生物も研究しようと考え、つくばにある国立環境研究所からシゾンを取り寄せて、シゾンの研究をスタートした。ここの藻類ストックセンター(正確には微生物系統保存施設 NIES collection)には非常にお世話になっている。
http://mcc.nies.go.jp/02introduction.html
シゾンとは、学名がシアニディオシゾンメローラ(Cyanidioschyzon merolae)という紅藻である。紅藻といえば、ノリの仲間が広く知られている。紅藻とは名前が付いているが、色は緑色である。
イタリアの酸性温泉から単離された紅藻であるため、至適pH2.5、至適温度が42℃という耐酸・耐熱性の生物である。
直径がおよそ1.5マイクロメートルで、単細胞性である。核ゲノムのサイズが16.5 Mbpと真核藻類では最小レベルである。核の遺伝子数がおよそ5300個と少なく、真核生物にもかかわらず、イントロンを含む遺伝子が極めて少ないという特徴と有する。このほかにも、ミトコンドリアや葉緑体が細胞に1つずつであったり、紅藻にも関わらず暑い細胞壁を持たないといった特徴を有する。
東京大学名誉教授黒岩先生が中心となったシゾンの研究は、日本独自であり、かつ、そのレベルは恐ろしく高い。特に細胞分裂に関する基礎研究の凄さは世界的にも知られている。シゾンというマイナーであるが多くの利点があることを見抜き、それを普遍的な原理を明らかにするモデル生物まで導いたコミュニティの方々の凄さには尊敬の念を抱いている。
明大に移ってシゾンの研究をスタートさせたが、環境バイオテクノロジー研究室では、シゾンを用いた物質生産の研究を行っている。2015年度に明治大学より特許を出願したが、シゾンの細胞外有機酸生産や色素タンパク質フィコシアニンの生産方法を開発した。
食品、食品の加熱処理方法、フィコシアニンの製造方法、有機酸の製造方法、及び水素の製造方法
特許出願の名称では食品、食品の加熱処理方法とついているのが面白い。特許の発明の名称というものは弁理士の方が考えるのであるが、非常に不思議で研究者にはよくわからないのである。
シゾンは、他の真核生物に比べて増殖が速く、かつ耐熱・耐酸性を有するため、屋外培養に展開できる可能性もある。一般にはあまり馴染みのない生物であるが、基礎・応用の両面において、その可能性は非常に高いと考えられる。
研究室では温度が40℃、pH2.5という特殊な環境で培養している。インキュベーターをシアノバクテリアやユーグレナと分けなければいけない点はネックではあるのだが。だが、新しい生物を研究対象にすると比較することもできるし、単純にワクワクするのは、生物を研究している人間の性(さが)かもしれない。
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