2018年3月3日土曜日

めちゃくちゃ大事な酵素、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ

"Allosteric Inhibition of Phosphoenolpyruvate Carboxylases is Determined by a Single Amino Acid Residue in Cyanobacteria."

Takeya M, Hirai MY, Osanai T.

Sci. Rep. 2017, 7:41080.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28117365

こちらも明治大学に来てからの新プロジェクトである。きちんとした生化学を始めた。一期生竹屋くんが筆頭著者となった論文である。

理化学研究所時代も植物の研究で生化学を行っていた。ところが、シアノバクテリアについては代謝の研究を行っていたものの、代謝酵素の生化学は行っていなかった。代謝を研究しているのに、生化学を行っていないことについては忸怩たるものがあった。

生化学を始めるにあたり、目をつけたのがホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)である。PEPCは、炭素代謝や植物生理学の授業なんかで出てくるかもしれない。生物学を専攻する大学生ならば、おそらく一度は習う酵素である。

PEPCがどこででてくるかというと、C4型植物である。植物や藻類は、大気中の二酸化炭素を固定することができる。この二酸化炭素の固定は、リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキリラーゼ/オキシゲナーゼ、通称ルビスコによって行われる。これがC3型植物である。

ところが、トウモロコシやサトウキビなどは、C4型植物と呼ばれ、異なる二酸化炭素の固定を行う。このC4型植物では、ホスホエノールピルビン酸からオキサロ酢酸を合成する際に二酸化炭素を取り込む。この反応を触媒する酵素がPEPCである。

さらにこのPEPCは重要で、大腸菌や酵母などの従属栄養生物において、コハク酸を生産する時にはこのPEPCが律速酵素になることが多い。

二酸化炭素の固定に重要で、コハク酸の生合成の律速酵素であるPEPC。まさに環境バイオテクノロジー研究室のための酵素といっても過言ではない。

この論文では、まずGST融合タンパク質として、単細胞性シアノバクテリアSynechocystisのPEPC(SyPEPC)を精製して、生化学解析を行った。至適温度や至適pH、kcatやKm値を決定した。

PEPCは、一般的にアスパラギン酸やリンゴ酸で活性阻害を受ける。ところがSyPEPCは活性阻害を受けない。はじめは何か実験系がおかしいのかと議論していた。ところが、売られている植物や微生物のPEPCを購入して同様の実験を行ったところ、アスパラギン酸やリンゴ酸で活性阻害を受けることがわかった。すなわち、SyPEPCが特殊な酵素であることがわかったのである。

マルチプルアライメントによるPEPCの配列比較を行った怒ろ、954番目のグルタミン酸がSyPEPCに特異的であることがわかった。そこでこのSyPEPCの954番目のグルタミン酸を、他のシアノバクテリアで保存されているリジンに変えて、生化学解析を行った。その結果、変異型SyPEPCの活性が、アスパラギン酸やリジンで阻害されることがわかったのである。



今度は反対に、アナベナというシアノクバテリアのPEPCの同じアミノ酸残基をリジンからグルタミン酸にして、生化学解析を行った。その結果、アナベナの変異型PEPCはリンゴ酸で活性阻害を受けなくなったのである。一方、アスパラギン酸については変化がなかった。

この研究に関しては、私はあまり口出しをしていない。一期生である竹屋くんが自分で大事なアミノ酸残基を発見し、その重要性をシネコシスティスのみならずアナベナでも証明したのである。かなり見事な仕事であった。

正直、もっと良い雑誌に通ると思っていたのだが、Scientific Reportsに落ち着いた。研究の価値が下がるわけではないし、学部4年生でScientific Reportsに出版したのですごいことであるのだが、もう少し評価されてもいいなと思うのが本音である。

いずれにせよ、当研究室の生化学グループの最初の論文であり、生化学グループはこれから栄光の道を歩んでいく・・・。

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