Ito S, Takeya M, Osanai T.
Sci Rep. 2017 Nov 8;7(1):15052. doi: 10.1038/s41598-017-15341-5.
お待ちかねの論文紹介である(まさか論文紹介が少ないなんてコメントがくるなんて夢にも思わなかった・・・)。
こちらは現M1の伊東くんの仕事。B4の時に出版し、その結果、みごと学生顕彰優秀賞を獲得して卒業式で表彰された。昨年の竹屋くんに続く2年連続の快挙である。
この仕事は、シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC6803の乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase)の生化学解析である。
乳酸脱水素酵素はピルビン酸から乳酸を合成する酵素である。
乳酸は不斉炭素があるため、L-乳酸とD-乳酸がある(本当はL, Dは小型大文字というフォントを使う)。L-乳酸を作る乳酸脱水素酵素はLdh、D-乳酸を作る乳酸脱水素酵素はDdhと略される。
シアノバクテリアSynechocystisは、D乳酸を作る乳酸脱水素酵素はDdhを持っている。100%ビュアなD-乳酸を作る酵素である。この酵素の生化学解析を行ったのがこの論文である。
論文では、シアノバクテリアSynechocystisのDdh(SyDdh)を組換えタンパク質として大腸菌から抽出・精製し、活性を測定した。
至適温度や至適pHを決定し、Km値やkcat値などを決定した。
また、14番目のグルタミン残基をグルタミン酸に変えることで、マグネシウムイオンによって活性化されるようになったり、234番目のセリン残基をグリシンに変えることで、本来の基質ではないオキサロ酢酸を基質とできる活性が向上した。
乳酸脱水素酵素という酵素は、いろいろな生き物で非常にたくさん研究されているクラシックで有名な酵素である。しかし、シアノバクテリアでは解析がなく、上記のように面白いアロステリック制御や基質特異性を有することが明らかになった。
この論文でもそうだが、酵素というのは1つのアミノ酸を変えるだけで性質がガラッと変わってしまうことがわかってきた。
とすると、アミノ酸配列がわかっているからといって、相同性のある酵素と同じだろうとは思ってはいけないことになる。
現在は、メタボロームや代謝モデリングなどが盛んである。
しかし、このような解析だけでなく、やはり1つ1つの酵素の生化学を行っていかなければ、本当の意味での代謝の理解ができないのではないだろうか。
明治大学に移ってから生化学グループを作って酵素の解析を進めているが、この論文の結果をみてもその思いを強くするばかりである。
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