2018年5月7日月曜日

JST-ALCAとは。No.4

応募に向けたチームは決まり、化学工業原料をターゲットとすることは決定した。また、生物としてはシアノバクテリアをはじめとする微細藻類で、シネコシスティスというもっとも使いやすいシアノバクテリアを中心とすることも決定した。ここまではあっさり決まった。

さて、具体的なターゲットの選定である。2013年4月のことで、応募の2、3ヶ月前だった気がする。

ターゲットの選定にはさまざまな条件があるが、その中で必須にしたことが、細胞外にその物質を放出してくれることである。

ポリヒドロキシ酪酸(PHB)というバイオプラスチック原料生産のプロジェクトも進めているが、ネックが細胞内に蓄積することである。細胞内に蓄積するということは、当然その細胞を集めて破砕しなければならない。破砕法はいろいろあるが、超音波や溶液を使うなど、当然コストや資源がかかる。

ということで、細胞外に放出してくれる化学工業原料がよいとなったが、そんな都合のいいものがあるだろうか。

そこで考えたことが、「シアノバクテリア(シネコシスティス)を発酵させてみよう」である。発酵とは、嫌気状態、いわゆる酸素をなくすことである。お漬物や酒樽で密閉している様子を思い浮かべればわかりやすい。

発酵して出てくるものが何かと言えば、乳酸、酢酸などの有機酸である。乳酸菌の発酵でヨーグルトなんて有名だと思う。さらに生き物によっていろいろで、酵母のようにエタノールを放出する生物もいることもご存知だろう。

有機酸の中で狙ったのが、コハク酸である。少し馴染みがないかもしれないが、クエン酸回路の代謝産物なので、高校の教科書にも必ず出てくる。

そして、このコハク酸がプラスチック原料などになることは、意外にもあまり知られていない。

ところが、世界のプロジェクトを見回すと、コハク酸をバイオで作ろうという流れがビジネス界では起っていた。また、酵母や大腸菌などではコハク酸生産はたくさん研究されていたが、微細藻類を用いた二酸化炭素からのコハク酸生産は、アカデミックの研究プロジェクトレベルでもなかった。この時期は、微細藻類を用いた物質生産プロジェクトが大流行りの時期だったのだが、それでもないのはかなり意外であり、盲点であったのかもしれない。

ということで、これは良いターゲットだということで、コハク酸を選定した。

しかし、問題は、そもそもシネコシスティスがコハク酸を細胞外に放出するのか?である。細胞外に放出しない生物だったら話は終わりである。過去の論文はなかった(話が長くなるので割愛するが、もう少し正確に言うと、スピルリナや他のラン藻類では乳酸などは放出されるが、コハク酸はあまり作らないという論文はあった)。

ということで、まあシネコシスティスを発酵させてみるかという割と軽いノリで嫌気培養を行い、細胞外にコハク酸が放出されるかを調べてみた。

そうすると・・・・

細胞外にコハク酸が放出されている・・・

しかも、自分の有しているSigEというシグマ因子の過剰発現株でコハク酸生産量が増えている・・・ということがあっさりわかった。

詳しくは書けないが、他にも特許となるようなコハク酸を増やす遺伝子や培養条件が2、3個一気に見つかってしまったのである。今でもこれは奇跡だったと笑いあっている。

ということで、コハク酸生産に大決定して、ALCAに応募することが決定した。

No. 5に続く。


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