Osanai T, Shirai T, Iijima H, Nakaya Y, Okamoto M, Kondo A, Hirai MY.
Front. Microbiol. 2015, 6:1064.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=osanai+meiji
この論文は、現在の研究プロジェクトであるシアノバクテリアを用いたコハク酸生産の一番最初の論文である。自分の中ではかなり重要な論文である。
コハク酸は、クエン酸回路(TCA回路)の中間代謝産物であることは、生物学を学んだ人間ならばだれでも知っていることだろう。ところが、コハク酸がプラスチック原料となることはあまり知られていない。コハク酸は、1,4-ブタンジオールと反応して、ポリブチレンサクシネート(PBS)という汎用的に使われるプラスチック原料となる。このほか、食品添加物、入浴剤、可塑剤など幅広く使われる工業原料なのである。
石油から合成されるコハク酸であるが、現在バイオ由来のコハク酸生産が競争となっている。少なくとも4つのベンチャー企業が誕生し、年間数万トン規模でバイオコハク酸が生産されている。この時には酵母や大腸菌などの従属栄養生物が使われている。従属栄養生物がコハク酸を生産する場合には、糖を炭素源とする必要がある
我々は、従属栄養生物を使わずにシアノバクテリアを利用することで、糖ではなく大気中の二酸化炭素を出発原料とするコハク酸生産を目指している。
この論文によって、単細胞性シアノバクテリアであるシネコシスティスが、暗・嫌気培養することでコハク酸を細胞外に放出することを明らかにした。コハク酸だけでなく、酢酸や乳酸も細胞外に放出されることが明らかになった。
コハク酸の生産量を高めるために、副生成物の生産阻害を行ったところ、酢酸合成酵素遺伝子であるackAを欠損させることで、コハク酸量が増加した。
また、糖異化のグローバルレギュレーターであるRNAポリメラーゼシグマ因子SigEの過剰発現とackAの欠損を組み合わせることで、コハク酸が野生株の約5倍である70 mg/Lに増加した。
この研究を端緒として、現在も環境バイオテクノロジー研究室では、二酸化炭素(CO2)からのバイオコハク酸生産の研究を進めている。主要な研究テーマの一つである。
まだまだ生産効率が悪く、実用化にはほど遠いのであるが、二酸化炭素からのものづくりは企業から求められていることであるので、斬新な方法をたくさん開発し、社会実装を行っていきたいと考えている。
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