2017年12月7日木曜日

窒素欠乏時に炭素をどのように貯めるか?

"Capillary electrophoresis-mass spectrometry reveals the distribution of carbon metabolites during nitrogen starvation in Synechocystis sp. PCC 6803."

Osanai T, Oikawa A, Shirai T, Kuwahara A, Iijima H, Tanaka K, Ikeuchi M, Kondo A, Saito K, Hirai MY.

Environ. Microbiol. 2014, 16:512-24.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23796428

理化学研究所に移り、代謝システム研究チーム(平井優美チームリーダー)の研究室に所属した。2010年度は基礎科学特別研究員だったが、2011年度よりさきがけ専任研究者となった。さきがけについては別項で詳細に語る。

平井チームはさらに大きなくくりでメタボローム研究のグループに所属している。この縁で、理研および山形大学の及川先生とコラボできたことは非常に幸運である。

そして次から次へと幸運は巡ってくる。センターに新しく神戸大学近藤先生のチームができた。近藤先生は、日本の生物工学のトップに君臨するお方の一人である。チーム発足と同時にいらした上級研究員(現副チームリーダー)の白井先生ともコラボして研究を進めることになった。改めて振り返ると、共同研究を組ませて頂いている方々が豪華すぎる💦。恵まれているなあ・・。

この論文では、遺伝子発現とメタボローム解析により、窒素欠乏後4時間のシネコシスティスの代謝変化を調べたものである。

これまで糖異化関連遺伝子発現が窒素欠乏時に誘導されることを明らかにしてきたのだが、一方で、グリコーゲンは窒素欠乏時たまることが知られている。この矛盾を解決するためにメタボローム解析によって代謝の全体像を明らかにしたのである。

メタボローム解析の結果、窒素欠乏時にはTCA回路の有機酸が増加することがわかった。また、窒素を多く含むアミノ酸が減少し、反対に窒素の少ないアミノ酸が増加することも分かった。

窒素欠乏時にはグリコーゲンに炭素を貯蔵すると思われていたのだが、これらの結果より炭素源は有機酸などの形でも貯めておくことが示唆された。炭素源を分散させて貯蔵しておくのである。

分散させて貯蔵する理由はまだ明らかになっていないが、再度増殖を開始する際に、一箇所に炭素源があるよりも便利なのかもしれない。この辺りの疑問は今後解消していきたいと考えている。



また、この論文ではNADPHの比率が窒素欠乏時に低下することも示している。NADPHは光合成電子伝達系の最終産物であり、かつ、さまざまな代謝産物の生合成に使われる物質である。しかし、測定が難しい。白井先生の技術ではじめてきちんとNADPHを定量することができた。これは非常に大きな出来事だったと思う。

この論文はトムソン・ロイターの高引用論文にも選ばれ、メタボロームのすごさを知った論文でもある。共著者の方々には頭が上がらない。共著者の皆様ありがとうございました。

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