2017年12月25日月曜日

転写因子RpaAによる代謝改変

"Changes in primary metabolism under light and dark conditions in response to overproduction of a response regulator RpaA in the unicellular cyanobacterium Synechocystis sp. PCC 6803."

Iijima H, Shirai T, Okamoto M, Kondo A, Hirai MY, Osanai T.

Front. Microbiol. 2015, 6:888.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26379657

こちらも新しい転写制御因子を使った代謝改変の論文。それにしてもこのころからいっぱい論文出しているなと感じる・・・たくさん出しているのだが、楽な論文はなく、毎回毎回大変なのだけれど、表にはあまり見えてこない。でも、必ずどの論文も大変です。そして、論文を書かないで優雅に研究をさせてもらえる時代でもないので・・・

時計関連のヒスチジンキナーゼHik8の過剰発現によって糖代謝やアミノ酸代謝を変えることができた。

Hik8は別のシアノバクテリアでSasAという名前がついている。このタンパク質は概日リズム(サーカディアンリズム)の情報を伝達する役割を持っている。

SasAはヒスチジンキナーゼであるため、下流にレンポンスレギュレーターがあり、リン酸リレーによってレスポンスレギュレーターの活性を制御し、細胞内の遺伝子発現を変化させる。

RpaAは、SasAの下流にあるレスポンスレギュレーターであることが知られている。シネココッカスというシアノバクテリアでは、このRpaAが概日リズムの情報に従って細胞の遺伝子発現を変化させる。

シネコシスティスの場合は、Hik8の下流にRpaAがあるかははっきりしていないが、光合成関連の遺伝子の発現を制御するため、概日リズムや光シグナルの伝達に関与し、類似の遺伝子発現制御を担うと考えられている。

この論文では、RpaA過剰発現株を作り、遺伝子発現や代謝変化を調べた。その結果、Hik8過剰発現株と類似の変化が起こったことから、シネコシスティスにおいてもHik8からのシグナル伝達の一部はRpaAによって行われていることが示唆された。特にHik8過剰発現株、RpaA過剰発現株共に、暗条件下で糖異化酵素関連遺伝子のmRNA量が多く、かつ、RNAポリメラーゼシグマ因子SigEのタンパク質量&mRNA量が多かった。

このことから、暗条件下で働く糖異化は、Hik8&RpaAによってシグナルの一部が感知・伝達されていることが示唆された。

このほかにも、RpaA過剰発現株では暗条件下特異的にグリシンやリジンなどが増えることがわかった。

このように、時計関連の転写制御因子を改変すると代謝を変化させることが可能であることがわかってきた。しかし、同時に代謝を制御する転写制御因子は複雑であるため、なかなか思い通りの制御ができず、基礎研究を進めて全容を解明することが必要であることもわかってきた。

シアノバクテリアの時計タンパク質のメカニズムについてはものすごく研究されているけれど、シネコシスティスについては数が少ない。ただし、うちの研究室ではメカニズム解明よりは代謝工学に重点を置いて研究を進めている。


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