2017年12月10日日曜日

糖代謝をパスウェイレベルで制御する転写因子Rre37

Pathway-level acceleration of glycogen catabolism by a response regulator in the cyanobacterium Synechocystis species PCC 6803.

Osanai T, Oikawa A, Numata K, Kuwahara A, Iijima H, Doi Y, Saito K, Hirai MY.

Plant Physiol. 2014, 164:1831-41.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24521880

これまでの研究により、RNAポリメラーゼシグマ因子SigEが糖異化遺伝子群を制御することが分かった。このSigEを過剰発現で糖代謝を改変し、バイオプラスチックであるポリヒドロキシ酪酸(PHB)や水素の生産量を増やすことに成功した。

SigEという因子を見つけたことで、シアノバクテリアの糖代謝の制御メカニズムを解明し、それを有用物質生産に利用できるようになってきたのである。

しかし、研究を続けていくうちに分かってきたことは、「糖代謝を広く制御する転写制御因子は、SigEだけではない」ということである。

このうち、大学院生時代の所属である田中寛先生の研究室で研究を進めていた因子にレスポンスレギュレーターRre37があった。この因子は東京薬科大学での研究が進められているが、SigEと似て非なる糖異化の転写制御因子である。

先行研究により、Rre37はグリコーゲンの分解酵素や解糖系の酵素の遺伝子発現を正に制御することが分かっていた。

この論文では、SigEと同様にRre37を過剰発現させ、糖代謝の変化を調べた。その結果、Rre37過剰発現株ではグリコーゲン異化酵素や解糖系酵素の遺伝子発現が増加し、炭素の貯蔵源であるグリコーゲンが減少することがわかった。

また、マイクロアレイ解析の結果、アセチルCoAからPHBを合成するための最初の2つの反応の酵素であるPhaAとPhaBの遺伝子発現が、Rre37の制御下にあることがわかった。

すなわち、SigEとは異なった形で、Rre37はグリコーゲンからPHBまでを代謝パスウェイレベルで制御していたのである。


実際にRre37過剰発現株ではPHB量が2倍に増加した。また、SigEとの二重過剰発現株ではPHB量が約3倍に増加した。

このように、たった1つか2つの遺伝子を過剰発現させることで、代謝やバイオプラスチックの量が変化することがわかったのである。



さらにRre37過剰発現株のマイクロアレイやメタボロームデータを解析すると、TCA回路とオルニチン回路のハイブリッドサイクルのようなものが存在する可能性が示唆された。

実際にこのようなサイクルが存在するかは証明できていないが、このようなハイブリッドサイクルが回ると、窒素欠乏時の代謝の動きは非常によく説明できる。

当時理化学研究所の平井優美先生の研究室にいたので、「このサイクルを平井-小山内サイクルと名づけましょう!」と言っていて、植物科学シンポジウムという大きな会議でも冗談交じりで言ったことはあった。しかし、未だに一度たりとも使われたことはない(笑)。そもそも「そういうサイクルは自分で名づけるものではなく、後に呼ばれるものだ」という先輩の意見がおそらく正しいのであろう(笑)。

それはさておき、このようなRre37という転写制御因子を用いることで、代謝や転写の基礎研究を行うとともに、バイオプラスチック量の増加という代謝工学にも成功したのである。

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