大学の教員なので、18歳〜20代前半の学生を指導する仕事である。大学院生となれば20代半ばになるし、スタッフはもっと年上である。
10代、20代の頃というのはとにかく悩みが多い年頃ではないかと思う。30代だろうが40代だろうが悩みのない人なんていないのだけれど、特に20代前半から半ばにかけて訪れる心と体のスキマについて話してみたいと思う。
研究室に配属されるのは、本学では大学3年生であり、そうすると20〜22歳くらいとなる。意欲に燃えて「こんな研究で地球を救う!」、「病気を直す薬や食品を作って社会に貢献する!」、「Natureなどの論文を書いて、科学に名を残す!」といった大きな目標を抱えている。とても素晴らしいことである。
ところが実際に配属されると、これまで成績が良かったとしても、実験で自分で計画を組み立てて手を動かすという全く違うことを進めていくことになる(実習では体験しているが、本物の研究となればレベルが異なる)。
そして、実験を進めてもなかなかうまくいかない。ちょっとしたことですべての実験が失敗に終わってしまったり、再現性が出なくて苦しんだりする。驚くほど進まない。そしてこのテーマで良いのか?と悩んだりする。
そうすると、高い目標と大きな自信は崩れ去り、色々と悩んで心身のバランスを崩したりする。
研究室配属の時としたが、新入社員として新社会人になった人もこれを経験することが多いのではないかと思う。自分も研究室配属から大学院までこれをたっぷり味わって、悩んだものである。
20代前半から半ばでは、この心(高い目標や意欲、志)と体(実力、能力、技能)のスキマ(ギャップ)を埋めるのが、極めて大事であると考えている。
若いのだから実力が劣っていても何もおかしいことはないのだけれど、優秀な人ほど目標を限りなく設定してしまう。それは素晴らしいことであるし、そうでなければいけないのだけれど、あまりにも離れすぎてしまうと、心身のバランスを崩してしまうことになる。20代の優秀な人によく見られる現象である。これは特定の業界に限った話ではないだろう。
このようなことが起こる原因の一つとしては、評価基準がいきなり変わることにもある。それまでのレポートや講義の成績は、「大学◯年生」として成績をつけていた。その年齢を勘案して評価しているのである。
しかし、論文投稿などで世界に飛び出せば年齢や職業など全く関係ない。社会人としてビジネスの世界に飛び込んでも同じである。いきなり10年、20年、それ以上経験のある人たちと競い合い、そこで評価を受けなければいけなくなる。
実力が劣るのは全く問題ないのだけれど、これまで高い評価を受けていた人ほど、低い評価に納得がいかない。このスキマ(ギャップ)で苦しむのである。
どうすれば解決するかと言われても正直難しいが、列挙すると
1) 仕事や学業ではなく、心身の健康と安全を第一とする
2) 長期的な目標と短期的な目標をきっちり分けて設定する
3) 勝つことと負けることを両方覚える
なんかが挙げられるかもしれない。
いうまでもなく、継続的に努力をして実力をつけ、成果を挙げていくことが解決策である。ただし、ただ頑張るだけでなく、1)心身の健康と安全がもっとも大事であることを思い出し、2)現実的な目標を設定して小さな「勝ち」を覚え、3)自分の能力や自分の成果を冷静に分析して、すべてにおいて勝たなくても問題ないことを認識すべきであると考えている。
このように、20代前半〜半ばで訪れる苦しい心と体のスキマをどのように埋めていくかについては、誰しもが悩むことであると思っている。
誰しもが悩んで通ってきた道でもあるので、悩んでいる自分が変でおかしいと思わないでほしいというのが一番言いたいことでもある。
そして、誰しもが通る道であるので、先にその準備をしてしまうというのがより良い対策なのではないかと考えている。
環境バイオテクノロジー研究室では、できる限り早く論文を書いて投稿することを推奨している。その理由はなぜかというと、この「スキマ」を経験するからである(当然、心身ともにきつい)。
しかし、人間は慣れる生き物であり、また、対策を考える知恵を持っている。2回目の困難にはより良く前向きに対処できる。
このように、研究の内容とは関係なく、20代で訪れる苦しい時期に向けて訓練をしておき、うまく乗り切ってほしいというのがPIとしての願いでもある。
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