2018年2月22日木曜日

ACR11は、シロイヌナズナの窒素同化酵素のアクチベーター

"ACR11 is an Activator of Plastid-Type Glutamine Synthetase GS2 in Arabidopsis thaliana."

Osanai T, Kuwahara A, Otsuki H, Saito K, Yokota Hirai M.

Plant Cell Physiol. 2017, 58:650-657.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28339983

こちらは、初めてのシロイヌナズナの論文である。

まずはじめに。

この論文1本出版するのに、全部で7〜8年間かかった。
もう、本当に・・・

内容はとても単純である。窒素同化でもっとも大事な酵素が何かと言えばグルタミンシンセターゼ(GS)である。この酵素は、グルタミン酸からグルタミンを作る際にアンモニアを取り込む。これによって、細胞内に窒素が供給されるのである。ほとんどの生物で、このグルタミンシンセターゼはもっとも重要な窒素同化酵素である。

シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)は言わずと知れた植物のモデル生物である。シロイヌナズナには、6つのGSがあり、GS1:1~1:5とGS2と名付けられている。GS1~6ではない。GS1:1~GS1:5は細胞質型、GS2は葉緑体型である(正確にはGS2はミトコンドリアにも移行する)。

本研究では、葉緑体型GS2の活性制御機構を調べた。GSは非常に重要な酵素であるため、転写から翻訳、タンパク質の修飾など、様々に制御されていることが、いろいろな生物で知られている。特にタンパク質-タンパク質間相互作用によって活性制御されている例が、幾つかの生物知られているが、GS2では知られていなかった。

本研究では、 共発現遺伝子データベースであるATTED-IIを用いて、GS2と関連のある遺伝子を探索した。その結果、ACR11という遺伝子がトップヒットであった。

ACR11は、ウリジリルトランスフェラーゼという酵素のホモログである。ウリジリルトランスフェラーゼとは何かというと、大腸菌でGSの活性を間接的ではあるが制御する因子であり、窒素のセンサーとして働いている。

ということで、どう考えてもACR11がGS2と関係がありそうだったのである。そこで、GS2とACR11をGSTやHisタグなどの融合タンパク質として精製した。そしてGS2の活性を調べたところ、ACR11によってGS2の活性が増加することがわかった。

また、窒素同化活性の低下のためか、ACR11欠損株は、生育が悪くなった。ACR11遺伝子の相補によって、生育が回復することもわかった。
さらに、ACR11欠損株では、アミノ酸の中で、グルタミンだけが野生株よりも減少していることが明らかになった。グルタミンはGS2の生成物である。

このように、本論文では、ACR11が窒素同化酵素GS2のアクチベーター(活性化因子)であることを明らかにした。すっきりとした結論の論文である。

当然良いジャーナルにと思ったのだが・・・なかなか通してもらえなかった。リバイスの要求がかなりつらく、できないものも多かった。理化学研究所から明治大学へ異動し、シロイヌナズナの実験もできず、また、自分自身で実験ができなくなってしまったことが本当に痛かったのである。このため、出版が2017年になってしまった。主要なデータは、2010~2011年くらいに取れていたのに、である。

いずれにせよ、内容は自信があるが、良いジャーナルにはならなかったという残念さが残ってしまった。異動や他のプロジェクトとの兼ね合いの難しさでなかなか手が回らなかったのである。

ともあれ、初めての高等植物の論文であり、ユーグレナに続いてシネコシスティス一辺倒から脱却できたことは嬉しい限りではある。

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