2018年2月16日金曜日

ユーグレナによるコハク酸生産

"Succinate and Lactate Production from Euglena gracilis during Dark, Anaerobic Conditions."

Tomita Y, Yoshioka K, Iijima H, Nakashima A, Iwata O, Suzuki K, Hasunuma T, Kondo A, Hirai MY, Osanai T.

Front. Microbiol. 2016, 7:2050.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28066371

これまで発表した論文は、すべてシアノバクテリア、しかも単細胞性非窒素固定型として世界中でモデル生物として使われているシネコシスティスが研究対象であった。この論文は私にとって、初めてのシアノバクテリア以外となる。

ユーグレナは別名ミドリムシと呼ばれている。小学生や中学生のころに池から採ってきて顕微鏡で覗いたことがあるかもしれない。直径が10~30マイクロメートルなので、光学顕微鏡で見ることができる生物である。

ユーグレナは藻類であるため、光合成を行うことができる。また、鞭毛によって水中を泳ぐこともできる。その進化は結構複雑で、何回かの共生を経て現在のユーグレナになったと言われている。

ユーグレナは、株式会社ユーグレナによって世間一般にも広く知れ渡るようになった。科学未来館で売られたミドリムシクッキーという1枚にユーグレナが数億匹?入ったクッキーが話題となった。その後、お菓子や飲料など、様々な商品にミドリムシが入り、広く一般にも販売されるようになっている。

このユーグレナは食品だけでなく、新しい展開も模索されている。ユーグレナを使ったワックスエステルという燃料物質の生産も計画されており、車や飛行機の燃料として使われることが期待されている。

そんな中、我々が発見したのは、ユーグレナがプラスチック原料であるコハク酸を生産するということである。

先行研究で、シアノバクテリアを暗・嫌気条件、すなわち発酵条件にするとコハク酸が細胞外に放出されることを発見した。そこで別の生物でも試してみようとしたのである。せっかくなら商業化されている生物ということで、ユーグレナを試してみた。

この研究は、株式会社ユーグレナとの共同研究であり、理化学研究所時代に始めたものである。たまたまユーグレナ社の研究所が理研の近く(横浜市鶴見区)に引っ越してきたので、「じゃあやってみましょう」という軽いノリで始めたものである。その時はこんなにうまくいくとは夢にも思っていなかった。

その結果、ユーグレナも同じく発酵条件でコハク酸を細胞外に放出することがわかった。特に、ユーグレナをあらかじめ窒素欠乏条件にした後に発酵させると、コハク酸生産量が劇的に増えることが明らかになった。
窒素欠乏条件ではパラミロンという炭素貯蔵源が増加し、発酵条件ではこのパラミロンを分解してコハク酸を作るため、このような効果が現れたのではないかと予想している。遺伝子組換えを行っていないユーグレナの生産量は800 mg/L以上となかなか高く、今後も期待が大きい。

ユーグレナがプラスチック原料を生産するということを発見し、これは新聞にも取り上げられ、反響もあった。シアノバクテリア以外の初めての論文ということもあり、私としても感慨深い論文の1つである。

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