2019年2月5日火曜日

コミュニティを選んで生きていく。No.6

コミュニティを選んで生きていく。No.6。なんか思いの外長くなってきた・・・。理化学研究所に移ってからの話。理研に移ったのは2010年。学振の3年目から出入りしていたので、研究は2009年からスタートしていた。

さて、理研旧植物科学研究センター平井先生のチームに移る。場所は横浜の鶴見区である。

ここでは、高等植物のシロイヌナズナを初めて研究することにした。そろそろシアノバクテリア一辺倒なのもちょっと思い、高等植物の研究を進めることにした。

とはいえ、植物はあまりにも複雑なので、自分としては葉緑体に絞って研究を進めようと思っていた。葉緑体はシアノバクテリアの細胞内共生でできたものなので、研究のつながりという面でも適していた。

研究としては、最初のあるあるで3ヶ月くらいただのクローニングができなくなるなど、いろいろな苦労もあったが、まあそれなりに順調には進めていた。

当時の平井チームは、メタボローム研究グループという大グループに所属していた。グループのボスは斉藤和季先生で、千葉大の薬学部の教授でもある。ビッグボスである。

当時、メタボローム研究グループには、のちに筑波大の教授になるKさんや阪大の教授になるMさんもいた。 それらの方々をまだ先生ではなくさん付けで読んでいた時代だった。今考えると豪華メンバーである。。

シロイヌナズナを始めたものの、最初は手探り。また、シロイヌナズナの研究は、バクテリアをやってきた人間からするととても大変である。

時間はかかるし、個体差めっちゃでるし・・・。個体差がでないように生育させるのが、そもそもの腕なのだと思う。自分は栄養欠乏などを試していたので、まずはそれに合わせた試行錯誤が必要で、かつ、特殊な悪い生育環境なので、実験が難しかった。

なので、2009年からはじめて1年くらい経ってから「アウトプットを高めるために、シアノバクテリアもやっておくか」と考えるようになった。

ところが、この辺もコミュニティの難しさがでてくる。

自分がシアノバクテリアもやりたい!となったら、資金とスペースを用意し、ボスを説得しなければならない。どれか1つ欠けても研究をすることはできない。これが自分の独自の研究をする難しさである。ただ、「やりたいです!」でやらせてもらえるのは学生までではないかと思う。職業として研究をやっている以上は、少なくとも説明責任は伴うし、自分の研究というならば資金やスペースも自分で考えなければならない。

理研は施設は理系なのだけれど、実はスペースに困っている。大学と比べればましだが、スペース問題はかなり深刻である。なので、ただやりたい!と言っても不可能なことが多い。

さいわい、1年間くらいシロイヌナズナを研究しながらチームに所属しており、植物インキュベーターが1台全く稼働せずにあったので、それを交渉してシアノバクテリアのインキュベーターにさせてもらうことになった。そう、このあと2年くらいはたった1台のインキュベーターでシアノバクテリアの研究をしていた。条件なんて変えられない。。。笑

高等植物の研究をしつつも、一人で微細藻類の研究を復活させようとしていた2010年。またもや一人になってしまった。中心から外れるのは、自分のせいかもしれない笑。

ところが、こういう時に自分は運がいい。

このころ、植物科学研究センターが改組することになっていた。理研というのは不思議なところで、純粋に研究に集中をさせてもらうことが難しい。常に新しい組織改変をしつつ、文部科学省から研究費を取ってこなければならない。内部の人はこれに労力を取られまくるのである。。

植物科学研究センターが改組になり、本所である埼玉県和光市の化学系のチームの方々と、横浜の植物系のチームが統合し、環境資源科学研究センター(CSRS)を作るという話になっていた。

こういう新しいセンターを作るのだから、当然新しい企画がなければならない。とはいえ、既存のグループは研究を継続しなければならない。新しい企画は必要だけれど、本音は継続がいいというのが組織づくりの難しいところである。

なので、上の方々は新しい研究計画を探していた。和光の化学系には、バイオプラスチックであるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の世界的に有名な先生がいらっしゃった。PHAはバクテリアが作る生分解性のプラスチックである。

環境資源科学研究センター発足にあたり、PHAなどのバイオプラスチックと光合成の融合が一つ大きなテーマとして考えられた。

ところが、植物やコケ、真核藻類はPHAを作らない。なので、PHAを植物などに作らせるとしたら、まず遺伝子を導入しなければならない。少なくとも2つか3つくらいの遺伝子を導入するところがスタートである。しかもそれはただのスタートであるし、類似の研究が海外では進められていた。なので、誰かが挑戦するにはリスクの高いテーマである。

そんな状況のなかPHAを作る光合成生物といえば・・・シアノバクテリアである。全部のシアノバクテリアが作るわけではないのだけれど、たまたま自分が使っているモデルシアノバクテリアであるSynechocystisが、PHA(正確にはポリヒドロキシ酪酸PHB)を作るシアノバクテリアだった。

しかも、自分は転写制御因子の研究をしており、なんと、PHBの生合成酵素遺伝子の転写を制御しそうな因子を2つ見つけたところだった。たまたま自分が解析していた因子が炭素代謝の制御だけなく、もう少し先のPHB生合成を制御していそうだった。

転写因子の候補があり、かつ、すでに変異株を作っていて、PHBってどうやって測定するんだろう?と論文を読んでいたところだった。そんなところに、PHAと光合成の融合の話がやってきた。

話を聞いた時には、

「は?いや、PHAと光合成ならば、ここにもともとPHAを作るシアノバクテリアがいて、転写制御因子候補があって、過剰発現株(変異株の一種、特定の遺伝子の発現を増やした株のこと)があって、たぶんPHB量が増えそうなんですけど・・・」

という状況だった。なんというタイミング。ということで、ただの一研究員だったのだが、すぐさま偉い方々の部屋に呼び出された。。ここでまた素晴らしい出会いが待っていた。

No. 7に続く。

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