特許の進捗はゆっくりと一歩ずつ No.3。久しぶりに連載。
前回は、特許とは、特許出願→特許登録というプロセスがあり、最後の登録まで進んで初めていわゆる特許取得というものになるのとのことだった。
さて、こんな不思議なプロセスの特許だが(自分もいまだに謎なシステムであるなという印象が拭えない)、じゃあ、最初の特許出願ってなんなんだ?ということである。
特許出願の意義だけれど、これは結構重要で、特許を出願するということは、他の人がその技術の特許を取得できないということである。
分子生物学関連だったら有名かもしれないが、例えばDNAの増幅に欠かせないPCRについては、スイスの製薬会社であるロシュが広範囲に及ぶ特許を取得していた。これにより、PCRを使った研究を行う場合は、間接的に巨額のお金がロシュ社に流れたことになる。
ヒトゲノムプロジェクトの初期には、遺伝子配列が明らかになったら、1つの遺伝子ごとに1つの特許として抑え、その遺伝子を研究するにはライセンス料を支払わなければならないようにする動きもあったらしい(認められなかったはずだが)。
このように、特許を取られてしまうということは、自由に研究ができなくなるということである。
これを防ぐために、特許を出願しておけば、特許の登録まで至らなくても少なくとも誰かに特許を取得される必要はないということである。実際、基礎研究の場合、特許出願で終わることも少なくない。
このように書くと、「特許出願をしなくても、論文として成果を公知にしてしまえば良いのではないか?」と思うかもしれない。
これも正しいのだが、残念ながら論文化には非常に長い時間がかかる。論文化したデータのコアとなる部分が4、5年前のものである、なんていう例は、決して珍しくない。
特許であれば、例えば「目的物質Aが2倍に増えました」で出願できるが、論文化となれば(程度はあるが)なんで2倍に増えたのかを明らかにする実験をしなければならない。
このため、先に特許出願をするということが必要になる。
実はまさにうちの研究室でも同じことが起こっている。こちらが先に特許を出願したのだが、4年くらいたってもまだ論文化できていない。そうこうしているうちに、類似の論文が海外から出版された。もし特許出願していなかったら、その発見は彼らが最初ということになってしまうだろう(現在、追加データを取り、少し違う形で論文を投稿準備中である)。
ということで、特許の登録(取得)まで行かなくても意味があるのが特許という仕組みである。
しかし、正直、この特許の仕組みはいまいち理解しがたい。これは、知財の権利の問題、すなわち法律の問題であって、サイエンスの問題ではないことに起因すると思う。サイエンスの内容を知財化するのだが、戦うところはサイエンスではないのである。
現在うちの研究室では、この特許を巡る戦いが忙しくなっている。仕組みを知ることがなかなか難しいのだけれど、特許に関わることで、また違った世界を垣間見えることができるのである。
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