本来の学位授与式は、学科ごとに行われる。表彰があり、そのあと、一人ずつ学位記を受け取る。そのあと、各先生が一言ずつメッセージを伝えることになっている。
こうした機会がなくなったのは致し方ない事態であるが、こういう時にウェブを使わない手はない。卒業生が見ているかはわからないけれど、ブログで書きたいと思う。たくさん書きたいことはあるけれど、ここは伝えたいことを3つに絞って書きたい。
1. 自分で世界のすべてを変えようとしない。
自分は研究者を目指して博士課程に進んだので、27歳まで大学院生だった。それこそ20代は360日は研究室にいた。昔の研究者なんかはそれこそ研究室に寝泊りは当たり前のスタイルもあったらしい。
研究室の話ではなく、だんだん減ってきたとはいえ、会社に就職して無茶な働き方をしてしまう場合もある。労働時間の問題だけではなく、例えば会社全体の人間関係などを良くしようと奔走することなども含まれる。
こういう無茶な働き方をしてしまう理由の1つは、20代のうちは、自分で世界の全てを変えようとしてしまうことである。
「入社した会社が昨年は赤字だったが、黒字化してみせる」、「部署の雰囲気がよくないが、自分がこの雰囲気を良くする」、「働き方改革がうまく進んでいないが、自分が交渉して働きやすい会社にする」
など、あらゆる理想に燃えるのが若さの素晴らしいところがだと思う。ただ、現実にはそんなにすんなりとことが進むはずがない。理想と現実のギャップに最も苦しむのも20代ではないかと思う。自分もそうだった。
なので、焦って自分で世界の全てを変えようとせず、目の前のことを1つ1つこなしていき、気付いたら世界が変わっているという感じがベストだと思う。遠い目標ばかり見ていると疲れて挫折してしまう。
2. 働くことは本当に大変。自分だけではないという認識を持つ。
仕事をしていれば、良いことばかりではない。むしろ失敗や嫌なことがたくさんある。一方、SNSや友人の話を聞くと、給料が高いだの、休みに旅行でどこに行っただの、高級なレストランで気の合う同僚と食事をしたなどの話題が入っていくる。周りの人には、いいことばかり起こっているように思えてしまう。
こうして、「自分だけ仕事が辛い」「自分はおかしいのではないか」とだんだんに自分を責めるようになっていく。
これは毎年卒業生に述べているのだが、仕事は本当に大変なもので、毎年「今年も辞めなかった、偉い自分」と思いながら働いている。一見うまくいっているようにに見えるだけで、実は周りの人も大変な思いをしながら働いている。
なので、周りがキラキラに見えてしまうことがあるが、誰しもそんな楽しいことばかりのはずはない。あくまでそう見えるだけである。
仕事は大変で当たり前という認識からスタートし、自分だけがうまくいっていないのではないと考えておくと気が楽になると思っている。
3. 辛くなったら、場所を変える。
自分はもともと旅行否定派。旅行なんて非効率的だと思っていた。しかし、同じ場所の行き来を繰り返すと、なぜか精神的に疲れてくる。
別に海外旅行などの大掛かりなものでなくても、いつもと違う場所に行くと、不思議と気が晴れる。
降りたことのない駅のカフェや雑貨屋に入ってもいいし、デパートやショッピングモールでいつもは絶対にいかないフロアに行ってもいい。公園だっていい。自宅と職場以外のところに行くことは、精神衛生にとても大事だと思っている。
さらにどこに行けばよいかというと、ぜひ母校である明大に来て欲しいと思っている。特に生田キャンパスは自然豊か。芝生に座るのでもいいし、豪華では全くないが、食堂でもカフェでも良いと思う。行って何があるわけではないが、いつもとは違う気分になれると思う。
そして、もちろん教員のところにも来て欲しい。「忙しいかな?」とか「覚えているかな?」とか全く思わずに、ぜひ来て欲しい(教員というと一般化してしまうので、少なくとも小山内のところはOK)。日々すごく忙しいので、不在だったり対応できない時も多いかもしれないが、それでも飛び込んでしまうのは大事だと思う。
来たからといって、解決策があることは少ないかもしれない。会社の業績が良くなるわけではないし、新しい就職先が転がっているわけでもない。問題の解決策を教えてもらえるわけでもない。
それでも人と話すと自分の状況がクリアになって、自分が何をすればよいかが明確になると思う。また、思い出話でもすれば気持ちも新たになる。話題がなければ、自分の場合は、最近のツイッターやブログでも話題にしてくれればよい。とにかく、ためらわずに生田キャンパスに来てしまって欲しい。
ということで、なんか今後が大変な前提になってしまったが、実はこれも例年の話。上記の通り、学位記の時に先生方が一言ずつ言うのだが、「これから仕事が本当に大変」と言って苦笑いさせるのが毎年のことである。
思いついた3つのことを書いたが、すべてに共通することは何かといえば、要するに健康でいて欲しいということ。自分を大切にして、今後の長い人生を歩んで欲しいと願っている。
卒業生の皆様、この度はご卒業おめでとうございます。

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